No02 旅立ち前

勇気には、二つのものが自然についてくる。
その人の中に眠っていた思いもよらないすごい知恵と
この世の中のいろんなことを大きく思いやる心である。
ーーー宮本 輝 著 「にぎやかな天地」より

歩いて日本一周の旅をしようと決心するまでには、いろいろと迷いがあった。
現役時代は、デスクワークが主で特別に身体を鍛える趣味もあったわけではない。
どちらかというと、疲れがたまりやすい体質でもある。
そんな自分が歩いて日本一周するなんて、途方もない夢を追おうとしているのではないか。
もっと他にやるべきことがあるのではないか。

夢は、若者なら挑戦することに意味もあろう。 しかし、還暦を迎えた大人はそれを達成してこそ意味があるのではないか。 はたして、達成の自信が自分にあるか。 そう考えると、もう一歩が踏み出せない気持ちだった。

考えてみるとこれまでに、もう一歩を踏み出す勇気がなかったために断念したことがどれだけあったことだろう。 お金がない、時間がない、家族のため等々の理由をつけて。
「歩いて日本一周する旅」の条件は、時間、お金、体力、家族の理解と協力の全部が揃うことである。 そのうちの体力以外は、みな整っている。 残った課題は体力、すなわち旅を続ける私自身の身体力と意志力だけである。

そうであるならば、もしかして、この旅は天が私自身を試すために用意してくれた舞台なのではないだろうか。
自分というものを客観的に測りうる格好の試験。 現役生活の卒業試験であり第二の人生の入学試験でもあると。
ならば受けてみよう。
こう勇気を出すと、すっきりした気持ちになって旅のアイデイアが次々と浮かぶようになった。
それと同時に、自分のこととは別に「今、日本の人々のくらしは本当のところどうなのか」と気になりだした。
それがやがて「共に還暦を迎えた戦後日本と自己をみつめる」という旅のテーマになった。

わたしが旅立ち前に準備したことは次の通りだった。
  1. 定年退職後の1ヶ月は、毎日、朝と夕に5〜6kmのウオーキングをする。
  2. 2ヶ月目は、朝夕のウオーキングに6〜8kgのペットボトルを入れたバックパックを背負う。
  3. 3ヶ月目は、バックパックの負荷を8〜13kgに上げる。
  4. 4ヶ月目は、バックパックを背負って半日および一日のロングウオーキングを繰り返し、仕上げに1泊2日の歩く旅をする。
  5. 5ヶ月目は、テストを兼ねて歩いて房総半島一周の旅をする。
  6. 上記と並行して、「日本一周徒歩の旅」のルート、宿泊施設、概算費用、用意するもの等の計画を立てる。
これら以外に、旅先で趣味の写真を撮ることも重要な旅の目的にした。
そのために、デジタル一眼レフカメラを購入してその習熟にも励んだ。




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