No107 山 陰 編(松江市玉湯町〜出雲市湖陵町)


今日は晴れで、雨の心配はないとの予報。
しかし、黄砂で視界は4kmという。
右は宍道湖、左は山陰本線に挟まれた国道9号線を行く。
昨日は宍道湖の対岸まで良く見えたのに、今日は全く見えない。
沿道の景色を楽しめない時は、ひたすら歩くしかない。
街なかに入ると、山小屋風の茶色い建物が眼に入る。
近づくとJR来待駅だった。
格好の休憩場所とばかり待合室でしばし休む。
山陰本線の普通駅にしてはチョッとおしゃれな建物だ。
駅舎を出る時、入口横に「ちかんに注意」の大きなのぼりが立っていて、悲しい世相を思い知る。

すこし気分を変えようと、宍道町では市街地の旧街道を行く。
すると沿道に、「八雲本陣」という大きな建物に出会う。
見学料300円で中に入ると、高い吹き抜けの土間になっている。
黒光りする太い柱と梁、そして白壁にむかしの火消し道具が何段にも掛けられ豪壮な雰囲気だ。

宍道木幡は箒がいらぬ 嫁や姑の裾で掃く

と謡われた、出雲地方屈指の旧家、木幡家の大邸宅だそうだ。
敷地1200坪の邸宅は、江戸時代には本陣機構を兼ね備え、国の重要文化財でもある。
戦後は割烹旅館として開放され、今年(平成18年)2月まで営業していたと云う。
宿泊はできなかったけれど、見学者はわたし一人。
見事な作庭を眺め、上の間床脇書院の七十畳の大広間に坐してみると、それはもう殿様気分。

イイ気分になって、昭和の雰囲気が残る街道を通り抜けて再び国道9号に出る。
まもなく道の駅「湯の川」があり、昼時なので、そこで桜うどん定食をたべる。

道の駅を出て2時間程進むと、大きな川を渡る。
斐伊川だった。

高天原から追放されたスサノヲノミコトは、出雲に降り立った。
そこでスサノヲは村人の災難を救うため、八つの頭と尾を持つ怪物、ヤマタノオロチを退治する。
そして、助けた土地の娘クシナダヒメと結婚する。

有名なスサノヲのオロチ退治の物語だ。
ヤマタノオロチの正体は、この斐伊川だとの説がある。
斐伊川の本流がオロチの胴体で、八つの頭と尾はその支流を指す。
古代より斐伊川の上流は砂鉄の産地で、オロチが流した血は、その砂鉄の色を暗示する。
つまり、オロチ退治は、暴れ川の斐伊川を治めた寓意と云う訳だ。
そんなことを想って川を眺めると、なにやら湧きあがってきそうな・・・。

今日の宿は、JR出雲市駅の近くにあるきれいな旅館だった。



次の日は朝から晴れて、黄砂の影響もなく清々しい天気。
絶好の大社日和だ。
この第3次日本一周徒歩の旅では、出雲大社、厳島神社、そして伊勢神宮には必ず寄ってみたいと思っている。
むかしの人達の様に、歩いて巡ることによって何かが得られるかも。
日本のことをもっとよく知ることができるかも、と楽しみにしている。
そのひとつが、今日かなえられるのだ。
宿を発って間もなく、直交する高瀬川沿いの道を行く。
気のせいか、出雲のまちは、大社のまちらしい端正な雰囲気がする。
途中に「出雲文化伝承館」というのがあり寄ると、ここも出雲の大地主江角邸を移築した出雲屋敷だった。
昨日の「八雲本陣」に劣らない規模と格調がある。
ここで出雲の歴史や文化を、展示やビデオで教わる。

出雲大社入口の大鳥居前には11時に着いた。
大鳥居をくぐると、黒松林の間を玉砂利の道が、本殿に向かって伸びている。
ザク、ザクと足音たてて歩くと、なんとも云えないイイ気持ちだ。
出雲 大社には、大学生時代に一度来たことがある。
大しめ縄を眺めた記憶がうっすらとある。

出雲大社は、スサノヲの6世で娘婿でもあるオオクニヌシを祀る。
出雲の国造りをしたオオクニヌシは、アマテラスの使者タケミカヅチから出雲国を譲るように迫られる。
国譲りを承諾する代わりに、オオクニヌシは立派な宮を立てることを要求する。
その要求は受け入れられ、「天の御舎(みあらか)」が建てらた。
オオクニヌシはそこに隠遁し、それが出雲大社だそうだ。

本殿の後ろには、スサノヲを祀る社殿がある。
さらにその後ろは、崖になっていて大きな岩が露出している。
岩の上半分は薄い緑色をしており、下の部分は大勢の人が触れてテカテカしている。
写真仲間のNさんがメールで、それが本当の御魂だと教えてくれた。
厳かに、わたしも手で触れてみる。

出雲大社の境内は、大勢の人で賑わっていた。
しかし、大社の門前と参道は人影が少なく寂しい雰囲気だ。
その門前の食事処に入り、カツ丼の昼食をとる。
昼食後、その参道を真直ぐ下って行く。
左側にかまぼこ型の建物が眼に入る。
一畑電鉄大社線の出雲大社前駅だった。
この駅舎も、屋根の正面から突き出たドーム形出窓のステンドグラスが輝きを失い、寂れた印象だ。

さらに進むと、またまた出雲御殿か、と思わせる見事な木造建築物に出会う。
それは、「八雲本陣」、「出雲屋敷」を上回る圧倒的な存在感だ。
近ずくと、廃線になった旧JR大社駅の駅舎だった。
これはショックだった。
これほどの駅舎が建てられるほど繁栄を誇った鉄道線が廃線となる。
全国のあちこちで見られる様に、交通の主流が車になったからだ。
車社会以前は、参拝者は全国から鉄道を使ってやってきた。
多くの参拝者は、ようやく着いた大社近辺で時を過ごし、宿泊することも多かったに違いない。
それが現在では、車で来て、参拝を済ますとさっさと他所へ移動してしまうのだ
こうして、大社周辺のまちは置き去りになってしまう。
出雲は、ふたたび、車社会に国譲りを迫われている、かのようだ。

合併前の出雲市と湖陵町の境に神西湖がある。
今日の宿は、その西側の湖畔にある国民宿舎だ。
ここも温泉場付きの宿舎で、部屋は広く快適だ。
夕食では、「生ビール500円で飲み放題」の誘惑に負け、ビールジョッキ2杯半を空ける。
コインランドリーもあって、ズボン、上下着を洗濯する。
洗濯と乾燥が一連で出来る最新の洗濯機で戸惑ってしまう。

今日一日は、この旅一番の快適な旅だった。




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