No109 山 陰 編(太田市温泉津町〜浜田市三隅町)

長期予報では、今日から天気はくずれるそうだが、さいわい晴れた。
朝日を浴びて、温泉津町の街なかを通って再び国道9号に出る。
温泉津町福光と云うところのコンビニで、牛乳を買って飲む。
すると、50歳位の男性から「歩いて旅をしてるんですか」と声をかけられる。
「日本一周する予定」と話したら驚いたというか、呆れたといった顔になった。

江津市に入ると、JR山陰本線と並行する道になる。
JR浅利駅の前を通り市街地を抜けると上り坂になる。
見晴らしの良い高台に食事処が見えた。
昼には少し早いが、そこでラーメンセットの昼食をとる。
食事後、店の裏側に出ると信じがたい風景に出会う。
日本海が、藍から緑色へと絶妙のグラデーションで彩られている。
どうしてこのような色になるのかと、夢中になって角度を変えて撮影する。

一方、山陰本線を挟んで反対の山側は、赤茶色の石州瓦の屋根が波うっている。
ここは日本か、と一瞬眼を疑いたくなるような光景だ。
まぎれもない日本の、古くからある石見特有の風景なのだ。
石州瓦は、外観の美しさだけでなく耐久性も優れた日本最上級の瓦だという。

それから先に進みトンネルを抜け道を下ると、中国地方最大の大河江の川が現れる。
川に架かる歩道橋を渡り終えると、狭い路地につながる。
路地を抜けて市街地を進むとJR江津駅前になった。
江津駅の観光案内所に寄り、島根県と江津市の観光マップを収集する。

JR都野津駅の待合室で休憩をとり敬川を渡る。
さらに行くと「柿本人麻呂万葉道」と書いた白い柱が建っている。
江津市の観光マップを取り出してみると、万葉集の大歌人柿本人麻呂は石見の国司だったと書かれている。
人麻呂は、この地で依羅娘子(よさみのおとめ)と出会い結婚する。
二人の間で交わした相聞歌と挽歌が万葉集に載せられているそうだ。
江津市には、その歌碑が柿本神社他5か所にあるともいう。
それで思い出したのは、随分前に読んだ梅原猛著「水底の歌」という本だ。
たしか、この本では人麻呂は石見に流され、そこで水死させられたというセンセーショナルな内容だった。
いずれにしろ、7世紀頃に柿本人麻呂がこの地にあって歌を詠んだことは間違いない。

今日の宿は、浜田市境にある波子海岸の石見海浜公園そばにあった。
砂山の裏になるところで、老夫婦が経営する民宿だ。
近くには「しまね海洋館アクアス」があって、夏場は賑わうことだろう。
4月末の今は、工事関係者の長期宿泊客が多く泊っていた。



次の日は浜田市三隅町古市場まで約33kmのロングな旅になった。
もう少し手前の旅館や民宿を探したが、休業中とか一人客では?と断られてしまった。
もしかしてホテルならと探したら、1軒だけ見つかった。
旅のルート国道9号から2〜3km海側に入り込むところだそうだが予約することに。

さいわい今日も薄曇りのほど良い天気。
宿から国道9号に出ると、道路を横断する巨大な吊り橋が眼に入る。
身を反らした魚の半身が道路の片側に立って、その尻尾の先から何本もの糸を吐きだして橋を吊っている様に見える。
どうやら、「しまね海洋館アクアス」と石見海浜公園を結ぶ横断歩道橋らしい。
この辺りからはもう浜田市になる。

長沢交差点から浜田市の中心市街地へ進む。
直ぐに陸上競技場が見え、歓声が聞こえる。
休憩を兼ねて観戦することに。
浜田市の小中学校陸上競技大会だそうで、観客席に座って観戦の輪に加わる。
そこからJR浜田駅前に着くと、ここもなにやらお祭りの雰囲気。
近くの人に尋ねると、「浜っ子春まつり」だそうだ。
今日は4月29日「昭和の日」で、ゴールデンウイークが始まったのだ。
駅前の大通りは交通止めになって、両側の歩道には大勢の人達が座り込んでいる。
そして、子供神楽が始まった。
石見神楽は、石見地方の伝統芸能で、笛、太鼓のはやしにのって神々の物語を再現するものだという。
豪華絢爛な衣装で勇壮に舞うもので、子供神楽とてそれは同じだ。
良い時に出くわしたと、夢中になって写真を撮る。
だが今日の旅は先が長い。
まさに後ろ髪ひかれる想いでその場を去る。
ところが、子供神楽は街のあちこちで行われていて、新町と云うところでふたたび引き寄せられてしまう。
「浜田市下有福町子供神楽社中」の幟をバックに、大蛇の妖怪と弓を持つ鎧武者の二人が真剣に演じている。
黒の烏帽子に白装束のはやしても可愛らしく、ここでも写真撮りに時間が過ぎる。

熱田交差点の手前あたりで昼時になり、レストランでハンバーグ定食を食べる。
西浜田の市街地から浜田港を望むと、赤屋根と黒屋根が混じり合う。
屋根を赤瓦にするか黒瓦にするかは、単に好みの問題なのだろうか。
そんなことを考えながらJR折居駅前を過ぎる。
フト横を見ると、ホームの上に「折居」の駅名板がポツンと建ち、その先は日本海とグレイの空だけ。
ちょっと旅の情けを感じ、カメラを向ける。
道の駅「ゆうひパーク三隅」に到着したのは、もう16時過ぎだった。
今日の宿までは、まだ5kmもある。

道の駅の先で、県道171号を行く。
この県道は山陰本線に沿って行くけれど、さびしい道で何だか心細くなる。
ようやくJR三保三隅駅前に着く。
駅前の通りには、「水澄みの里 歓迎 和紙の郷」と書かれたゲートが建つ。
その下に、旅館、酒店、薬店などの看板が架かっている。
辺りは静かな雰囲気だけが流れる。
落ち着かないままゲートをくぐり県道を進む。
三隅川の川べりを歩いていた時、不思議な感覚に襲われる。
三隅川と田んぼがのどかな拡がりを見せ、左右には低い山なみが見える。
遠くで人影が見え、その話声がまるで近くで話しているように聞こえる。
話し声が左右の山に反響するのだろうか、夢の中の様だ。

今日の宿は、三隅川の河口の海辺に立つ鉄筋3階建てのホテルだった。
ホテルの玄関に着いたのは、もう18時近かった。
入浴して直ぐに夕食となった。
ホテルの名物と云う「釜めし」など料理がおいしく、久し振りにビール大瓶1本をあける。
約33kmの旅はさすがに疲れ、明日の宿の予約を電話で済ますと、洗濯も日記も何もしないまま眠る。




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