No122 九 州 編(熊本県宇城市松橋町〜芦北町湯浦)


松橋町で連泊し休養した次の日は、曇り時々雨のハッキリしない天気。
そのせいか、休養明けというのに、イマイチぱっとしない。
梅雨に入った南九州に向けて旅を再開するのだ、と気合を入れる。

宿を発って松橋町の市街地を抜け、県道14号で八代市に向かう。
まもなく、平坦な農村地帯になる。
特に氷川町辺りでは、やけにビニールハウスが目立つ。
一体何を栽培しているのか、ハウスの外からは分からない。
遠くの雲間に見える山容が美しい。
千丁町(現八代市)で昼時になり、ヒレカツ丼(800円)を食べる。

休養して疲れがとれたはずが、昼前後から少し眠い状態になる。
缶コーヒーを飲んだりして眠気をまぎらす。
すると、今度は腰痛が出たりする。

八代市の市街地に入ると、県道14号は国道3号に接続する。
そしてその先で、九州の大河球磨川を渡る。
やがて国道3号は、肥薩おれんじ鉄道と並行して山裾を行く。
南九州自動車道八代南IC付近で今日6回目の休憩をとる。
そこから1時間ほどで、おれんじ鉄道日奈久温泉駅前に到る。
しかし、温泉街はさらに1kmほど先だった。

温泉街の中心入口に立った時は嬉しかった。
「日本一周徒歩の旅」の計画を練った時に、日奈久温泉は室町時代にさかのぼる歴史ある温泉地だと知った。
その時からどんなところかと、この地の訪問に胸を躍らせてきた。

今日の宿は、バス停「温泉前」のところにあった。
宿の前には観光案内所があり、そこで観光パンフを収集する。
パンフによると、日奈久温泉は、約600年前に八代海の干潟の中で発見されたと云う。
江戸時代に干潟の埋め立てが進み、細川藩営の温泉場となった。
そして、明治〜大正〜昭和の時代は、人も羨むほどに栄えたと云う。
それを物語る写真のなかに、今はない劇場「曙座」というのがある。
洋風3階建ての堂々とした建造物で、往時の繁栄ぶりがしのばれる。

今は都会でも温泉が掘られる時代で、どこの温泉地もかつての賑わいを失いつつある。
日奈久温泉も例外ではなさそう。
それでも、今日の宿は日奈久の風情を残す和風旅館でホッとする。
玄関には、お決まりの宿泊者名を記す看板が並べられている。
その中に、私の名前も大きく目立つ字で書かれていて、ちょっと気恥ずかしい。
温泉は、「アルカリ性単純温泉」で無色透明、まろやかな湯質だ。
種田山頭火も気に入って、三泊もしたという。



次の日の朝も、起きて直ぐに温泉場に向かう。
浴室に入ると、籠に女性の下着が入っていて、ガラス越しに女性の姿が。
あわてて入口に戻ると、確かに女湯の暖簾がかかっている。
昨夜と男女の浴室が入れ替わっていたのだ。
「失礼しました」と声をかけ男湯へ。

朝の食事は、大広間で宿泊客3組が一緒だった。
会話する声もなく、何となく気まずい感じだ。
私だけが一人客で、他の2組はカップル。
何となくこちらからは、声をかけづらい。
こういう時は、女将さんの場を和らげる気配りが欲しい。

宿を発って温泉街の裏道を通り国道3号へ。
ちくわを作る店や、むかしの姿そのままの旅館が町並みに風情を残す。
今日は曇り時々晴れの天気で、涼しい風もあって歩きやすい。
温泉のお陰で、疲れもとれた感じ。
時々、右腰に痛みが走ったが、ゆっくり歩くと治まった。

「南九州自動車道」は、日奈久までは開通している。
その先は建設の真っ最中で、今日の旅は、その建設現場を巡る旅のよう。

肥後二見という所から、海沿いの道が山間の道になる。
狭い山間の土地に、沢山の小さな棚田が見える。
そして、山の斜面に貼りつく様に農村集落がある。
そんな風景を眺めながら行くと、道の駅「たのうら」に出会う。
比較的大きめの道の駅だ。
木造平屋の建物には、沢山の物産がならぶ。
その前の舗道には、白いテーブルとイスが幾つか並べられ、そこで家族連れがアイスクリームをなめている。
田浦町(現芦北町)の市街地で、昼時になり、ラーメン定食(800円)を食べる。

昼食後、1時間ほど進み海浦トンネルの手前で、マラソンスタイルの男性と出会った。
九州の最南端佐多岬から宗谷岬を目指す列島縦断マラソンに挑戦中とのこと。
千葉県松戸市の新屋敷さんで、小学校の教頭職を定年1年繰り上げて退職し、「自分探しの旅」に出たと云う。
そんな彼を取材した船橋よみうりと南日本新聞両記事のコピーをくれた。
日本をマラソンして旅するとは、思ってもみないことで驚く。
世の中はひろく、いろんな人がいるものと改めて思う。
互いに名刺を交換し、写真を撮り合い、携帯の電話番号も教え合って別れる。

二人の旅を終えた後、新屋敷さんから便りをいただいた。
それによると、無事に宗谷岬に達し、83日、3400kmの「自分探しの旅」を終えられたという。

走るのと歩く違いはあっても、同じような旅をする人との出会いは嬉しいものだ。
そして、元気をもらう。
長い海浦トンネルを抜け、芦北町役場前を通り、湯浦交差点に到る。
そこから今日の宿に向かって、教えられた道を行く。
沿道は公園の様な緑地になって、ゲートボールを楽しむ人たちがいる。
道中、余り人を見かけないので、急に人が現われた感じでチョッと驚く。

今日の宿も、肥薩おれんじ鉄道湯浦駅に近い温泉旅館だった。
さっそく浴室へ行くと、広い浴槽にかけ流しの温泉が溢れていた。
洗濯にも温泉が使えるほどだ。
今日は日曜日で夕食は出ないと云うので、かなり遠くのコンビニまで弁当を買いに出る。
部屋に戻って弁当を食べながら思った。
今度の旅では、疲れが溜まる度にいつも温泉宿に泊れる幸運のことを。



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