No164 四 国 編(鳴門市撫養町〜香川県さぬき市志度)

目覚めの良い朝だった。
今日ははやくも香川県入りする。
東かがわ市まで31kmのロングな旅。
はやめに宿を出て、小鳴門海峡沿いの道を行く。
やがて海峡に架かる二つの大橋が見える。
ひとつは、白いスレンダーなアーチ連続橋で高速道路の橋。
もうひとつは、赤い桁を白い二つの門柱とロープによる吊り橋構造の一般道路橋。
ふたつの大橋の下を通ると、高速バス乗り場があった。
チョッとシャレたデザインの高速バスと周囲の殺風景な雰囲気がなんとも違和感。

さらに先へ進むと、また白い大きな斜張橋がみえる。
小鳴門大橋だそうで、そのたもとで休憩をとる。

道はやがて国道11号につながった。
国道を行くと瀬戸の海に出て、山裾の海沿いの道になる。
沿道の物産店には、みごとな金目鯛の干物がならぶ。

山側に落石防止の厚いコンクリート壁が高く続く。
そこに一ヶ所、開口部がありのぞいてみる。
山裾に小さな祠があり、その横の石張りの壁から水が流れ落ちている。
入口のコンクリート壁に貼られた説明板には「御霊命水」とある。
なんでも、450年前の昔に落武者の命を救った不思議な霊水として、今も信ずる人が絶えない、と書かれている。
ちょうど一人のお年寄りが来て、何本ものペットボトルに霊水を注ぐ。
その後、わたしも霊水を手に注いで飲んでみる。
冷たくおいしい水で、なんとなく元気が出てきた気がする。

霊水を飲んで元気に歩きだすと、コンクリート壁の上にサルがいた。
サルは壁の上に建てられた高い金網柵を乗り越えて道路側に出ている。
サルに近ずくと、急いで金網柵に登りこちらを見下ろし、それから悠々と山へ。
サルが出没するほど淋しい道で昼時になる。
昼食は遅くなりそうと諦めかけた頃、洋風の建物の「カフェ&レストラン」があった。
店に入って窓辺の席に着くと、帆船模型と望遠鏡が窓際に据えらている。
望遠鏡の向く先へ眼をやると、波防ブロクと海に浮かぶ数隻の漁船が見えた。
メニューを見ると、千円以上のものばかり。
旅人にはチョッと不向きの店に入ってしまったか、と少しばかり悔やむ気持ちに。
「本日のおすすめメニュー、グラタン(エビ、カニ、貝)1050円」というのがあり、それに決める。
ウエイトレスのおばちゃんに「本日のおすすめをおねがいします」と注文する。
すると、グラタンよりもさぬきうどんが似合いのオッサンに見えたのか、そーという。
「本日のおススメはグラタンですが、よろしいですか」と。
「もちろん、エビグラタンをおねがいします」と胸を張る。
出てきたグラタンは、四角いパンの器に入ったもので初めてみるものだった。
珍しいので、携帯電話のカメラで写真を撮り、今日の旅便りに添えることにする。
パンのカリカリ具合もよく美味しかったけど、旅人のお腹にはやはり物足りなかった。

今日は10月28日で、だいぶ涼しくなってきたようだ。
暑かった体験が残る身体は正直だ。
休憩すると、体力の回復が以前よりだいぶはやい。

昼食後小一時間程行くと、トンネルに入る道と海側に迂回する道に分かれる。
海側の道の入口に、「うずしおロマンチック海道 彫刻公園」の看板が建つ。
どうやら海側は旧道で、トンネルの別道ができたので、この間を彫刻公園にしたのだ。
日本海沿いの道でも、似た様なところがあった。
彫刻公園に入って行くと、道端に現代アートの作品が幾つか設置されている。
その間のベンチに腰を下ろし、背中の荷物を横にしてしばし瀬戸の海を眺める。

その緊張の緩みが禍してか、後半は疲れやすく30分毎に休憩するようになる。

今日の宿は、JR讃岐白鳥駅から近い海辺にあると云う。
その讃岐白鳥駅前に着いたのは、夕方の5時過ぎで日も暮れてきた。
宿に電話して尋ねると、近くの白鳥神社を突っ切るとすぐだと云う。
その白鳥神社の境内はやけに広く、暗いこともあって少し迷う。
宿に着くと、結構大きな洋風の観光旅館だった。
部屋はテラス付きの和室で、トイレと洗面所もある落ち着いた部屋。
食事も美味しく、とても気分の良い宿だ。



次の日、出発の時に宿のご主人と「まちおこし」の話になった。
それが思わぬ長話になり、出発が遅れた。
近くの白鳥神社は「ヤマトタケルノミコト」を祀る由緒ある神社と云う。
昨夕、その境内を通って来たけど暗かったので、朝もう一度寄ってみるつもりだった。
それが出発の遅れもあって諦める。

宿を出てすぐに、自動販売機がびっしり並ぶ場所があった。
日本の自販機会社の製品が全部揃っているかのようだ。
それらをゆっくり眺めて、水分補給用のペットボトルを1本選ぶ。

宿からは国道11号ではなく、海に近い地方道を行くことに。
ところが、旧い街道を期待したこの選択は誤算だった。
そんな街並みはなく、単調な道が続く。

道の駅「津田の松原」に、昼少し前に着いた。
昨夜、カメラの画像データ―をCDRにコピーし、記憶容量を空にする作業を怠った。
それで2枚のCFカードは、画像データーで満杯になってしまった。
道の駅の休憩室にコンセントがあり、そこで怠った作業を終える。
ホッとしたところで、道の駅にある「手打ちうどん」店に入る。
かけうどんの大盛を注文する。
出されたうどんは通常の4倍位あって、さすがの旅人もそれ以上何か追加する気にならない。
お陰でこの日の昼食は、かけうどん代290円だけで、徒歩旅行最安の昼食代金額を記録する。

「津田の松原」と呼ばれるだけあって、ちかくの浜辺は砂浜と松林のうつくしい海岸だ。

その風景を写真に収めて、また旧道で津田町の市街地を通って行くことに。
すると今度は、少子高齢化社会の現実を思わされることになる。
まちなかは静かで人影も薄い。
かつて賑やかだったアーケード商店街は、一瞬、無人街かと思うほど。

今日の宿は、第86番霊場志度寺の近くという。
まずはその志度寺を目指し、午後4時過ぎに到着する。
左右に仁王像を配置した山門を過ぎると、見事な五重塔がそびえる。
まさに古刹の雰囲気漂う境内には、年老いた一人の巡礼者のみ。
そんな境内から、予約した宿に電話で場所をたずねる。
すると、山門を出て、そのまま真直ぐに来ればすぐだと云う。
教えられた通りに行くと、町家のガラス格子引き戸に貼られた小さな白い看板にその名があった。
建物は古いが、水廻り設備は新しく、女将さんは気配りのある人で気分の良い宿。

前にも書いたように、お遍路は徳島、高知、愛媛、香川と時計回りの「順打ち」に廻るのが一般的だ。
だから順打ちするお遍路の心境は、発心の阿波、修行の土佐、菩提の伊予、涅槃の讃岐とたとえられる。
八十八ヶ所ある霊場も、この順番名が寺の名前に着く。
志度寺は、第八十六番霊場だ。
この宿に泊まるお遍路は、明日の二つの霊場巡りで満願を迎える。
そんなお遍路の心境はいかがかと、興味津々だった。

残念ながら今日の同宿舎は、65歳になるという愛知県の男性一人だけ。
それも自転車遍路で、歩く旅人とは打てば響く様な会話とはならない。
それでも、苦しかった旅がいよいよ明日で終えられる喜びが、顔からあふれている。
わたしにとっても、今日は四国最後の夜で、明日は高松から宇高連絡船にのる。
そんな二人の気持ちは、どこかで共感しあい楽しい夕餉となる。

この自転車遍路の口から出たのも、「旅で得られた最大のものは感謝」だった。


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