No175 紀 伊 編(串本町串本〜新宮市橋本)


今朝は、まだ黒い雲が空をおおう小雨の中の出発。
海は潮岬を挟んで、穏やかな紀州灘から波音轟く熊野灘になる。
串本町の市街地周辺の海は、対岸に腰を据える紀伊大島のお陰で波静かだ。
その静かな海の境界を示すかのように、串本と大島の間を大小の岩が一列に連なる。
それは橋の杭だけが残った様に見え、「橋杭岩」と呼ばれる名勝地だ。
近づいて、鋭い刃先の様な岩の群れを目にして、思い出すものがあった。
何年か前に、おふくろ孝行をしようと、妻とおふくろの三人で紀伊半島一周の旅をした。
その時、たしかにこの岩の前で記念写真を撮った。
息子としてできた、唯一のおふくろ孝行の旅だった。

道は山と海の狭い間を、JR紀勢本線と並行してゆく。
道の上から、鉄の大鍋で何かを煮込む作業場をのぞいたり、小さな漁港にカメラを向ける。
道端に小さな棚の付いた箱が並んでいる。
野菜等を置いて、通行人が勝手にとってお金を置いてゆく無人の販売箱だ。
「ぽんかん」と書いた箱が多いが、時期が悪いのか今は何も置かれていない。
ひとつの箱には、タクアンか何かをビニール袋に入れて、一袋百円とある。
買ったひとは下にある料金箱にお金を置いてゆく、と云うものだ。
この、人の善意を前提にした無人販売は、一時全国に広まった。
しかし、不心得者が増えたのか、この旅では何も置かれていない無人販売箱が目立つ。
たまに何か置かれていても、料金箱に取り付けられた錠が、なんとも痛々しい。

JR紀伊田原駅近くで食事処があり、昼食にする。
野菜炒め定食(900円)で腹いっぱいに。

午前中まで小雨が残ったが、午後は快晴になる。
雨あがりの山や海は、すばらしくキレイだ。
浦神というところで、道は美しい入り江の先端に着いた。
入り江全体が西陽を受けて、船も海も山も輝いている。
岸壁に干された赤い魚網は、真っ赤で燃えるようだ。
紺碧の海面は周りの山肌を映し込み、海水は透明感あふれている。
おもわず岸壁の階段を下り、海水を口に含んでみる。
しょっぱく苦い味だった。

今日の宿は、太地町の国民宿舎「白鯨」。
ここも温泉付きというので、早く宿に着いてゆっくり湯につかろうと思った。
しかし、道路地図で想定した距離より3kmほど長く27kmの行程だった。
国民宿舎は、5階建ての立派な建物だけど、1階のロビーは何だか暗かった。
照明が少し暗いせいかと思ったが、そのせいだけではなかった。
大きな身体の外人男性が何人も出入りする。
それは観光客とは違う異様な違和感をかもしだしていた。

迂闊にも、これらの外人は反捕鯨団体の連中というのを、旅を終えてから知る。
クジラを絶滅から救うと云うことは理解し賛同する。
しかし、クジラを食する文化まで干渉されたくはない。
太地の人達は、クジラ漁の長い歴史と伝統の中で生活を築いて来た。
他国まで来て、その伝統漁まで妨害する権利はあるだろうか。
どこの国の人でも、こんな行為には激しく抵抗するに違いない。

とはいえ、日本人は価値観の違う相手を説き伏せることが苦手、なのが歯がゆい。



太地町は蝶が羽をひろげた様な大きな岬にある。
左右の羽の間が太地湾で、宿は左の羽の中間辺りにある。
次の日の朝、部屋の窓を開けると眼の前に穏やかな太地の海が拡がる。

ここの国民宿舎も朝食は7時半からで、出発は8時35分になった。
食事や設備等は申し分ない宿だった。
宿を発って、蝶の左側の羽沿いを行く。
すぐに、大きな捕鯨船とやりを持つ裸の男性像の前を過ぎる。
捕鯨船は今はモニュメントになっていて、男性像と共に太地の歴史と伝統を象徴する。
その先で、道は森浦湾沿いになって国道42号につながる。
快晴の天気で、波静かな湾に釣り糸を垂れる風景は穏やかで美しい。

温泉に浸かっても疲れがとれなかったのか、身体が少し重い。
国道42号の森浦交差点の所でコンビニに入る。
牛乳とウオーターを補給し、元気を出して出発。
JR湯川駅で休憩し先に進むと、美しい水辺の風景になった。
それは、疲れた旅人にカメラを持っていることを思い出させた。

JR紀伊勝浦駅近くのコンビニに入って、プリンとヨーグルトを買って休憩する。

コンビニを出て30分程行くと、破風や柱を朱に染めた神社風の建物が目に入る。
近ずくと、JR那智駅だった。
駅全体は、「那智駅交流センター 丹敷(にしき)の湯」と書いた付属の建物もある大きなもの。
「那智の滝」や「熊野那智大社」へ行く玄関口にふさわしいた建物と規模。
しかし、駅舎の華々しさに比べ周りは余りにも淋しい。
駅前の広場では、タクシー1台が停まり、運転手がのんびり車の手入れをしている。
近くの旅館案内所は廃業状態。
車社会の進展で、ここでも鉄道の衰退を印象付けられる。

宇久井港入口交差点近くで食事処を見つけ入る。
ラーメン・チャーハンセット(850円)で遅めの昼食をとる。

昼食後も、今日こそ15時までに宿に着き、ゆっくりしようと頑張って歩く。
その予約してあるホテルは、新宮市の中心市街地入口付近にあった。
国道42号沿いにあってすぐ見つかった。
それでも、ホテルに着いたのは、15時を20分程過ぎていた。

ホテルの部屋に入って、イスに腰を下ろしホッとする。
すると、そのまま20〜30分位眠ってしまう。
眼が覚めて、急いでホテルの洗濯機(150円)を借りて洗濯する。
それから、近くのスーパーへ行き、入浴剤と夕食の食糧を仕入れる。
今夜の晩さんは、さんまずし、コロッケ、サラダそして日本酒(ワンカップ)。


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