No29 ひたち・みちのく編(青森県三沢市〜野辺地町)

三沢の朝は、昨日と変わってすばらしい好天気になった。
昨日の疲れが残っていて心配だったが、出発の時は元気だった。
しかし、上り坂が続くとだんだんと身体が重くなってきた。
昨日と同じく、30分ほどで休みをとることが多くなった。
ところが、休んでいると頭上ですさまじい爆音である。
米軍基地の三沢飛行場に離着陸するジエット戦闘機の爆音である。
この音に慣れていない人は、本当にびっくりすることと思う。
三沢に限らず沖縄など空軍基地のあるところに住む人たちの苦痛を想わざるをえない。
そんなことを考えながら昼時になり、今日も運よく小ぎれいな和食の店があった。
どんなに疲れていても、食欲だけはある。
疲れを吹き飛ばそうと、ヒレカツ重を食べた。 おいしくて、いっとき元気になった。
ところが歩き始めるとまた身体が重く、「道の駅おがわら湖」に着いた時はへとへとになった。
道の駅には公園があり、その中に屋根の付いた大きな四角形をした平らな木製ベンチがあった。
そこに仰向けになって休んだら少し眠ってしまった。
眠ったおかげで、疲れもとれ元気を取り戻した。

今日の行程は、主要地方道八戸・野辺地線の一本道だ。
右に小川原湖、左に並行するJR東北本線と遠くには八甲田山という風景がつづいた。
しかし、三沢から東北町にある今日の宿まで一度もシャッターボタンを押すことがなかった。
疲れからよほど気持ちまで固まってしまったのか、写真をとる気分にならなかったのだ。

宿はJR東北本線「乙供駅」の前にあった。
昔中学生だった頃に、映画館の予告編で森繁久弥主演の映画「駅前旅館」を観たおぼえがある。
その映画の旅館には、玄関のガラス戸に大きく旅館名が書かれていたと思う。
今日の宿もまさにそれで、昭和に全盛を誇った典型的な駅前旅館だ。
とおされた部屋は、二部屋分もある大部屋だった。
各部屋は、年代を感じさせるガラス戸で仕切られている。
全盛時は、旅商人たちが大部屋に入り混じって眠ったかもしれない。
今日はこの大部屋を、わたし一人で使ってよいという。
それから女将さんは、すぐにお風呂の用意をしてくれた。
入浴剤入りのとても良い湯だった。

夕食時になって、和室の食堂に行くと大型のオーデイオセットが眼にとまった。
庶民が車を持てる時代が来る前、大型オーデイオセットはあこがれの品だった。
いまは置物の観だが、当時は誇らしげに映画音楽等を響かせていたことだろう。
夕食を済ませて部屋にもどっても、室内にはテレビもラジオもない。
それで、窓から乙供駅の夜景を眺めていると往時も偲ばれて旅情にひたることになった。


翌日の朝、玄関で靴を履こうとすると、猫がすり寄ってきた。
女将さんが人懐こい猫なんですと笑いながら見送ってくれた。

今日の行程は、野辺地まで約16kmのショートコースだ。
それでも結構起伏があって、気温も20℃を超え久し振りに汗ばんだ。
昼食をどこでとろうかと迷っているうちに野辺地町の市街地に着いてしまった。
役場の近くで食堂を見つけて中に入った。
百石町でもそうだったが、外からは営業しているかどうかわからない感じで、おそるおそるドアーを開けた。
店の中は暗く、声をかけるとおばさんが出て来て明かりをつけてくれた。
親子丼を頼んで食べ終わる頃に、おばさんが話しかけてくれた。
いろいろとオシャベリをしたけれど、ところどころ方言があって意味が分からないこともあった。
今日の宿「クラブ旅館」は、その食堂からすぐ近くだった。
「クラブ旅館」とは変な名前だと思った。
旅館に着いて部屋に案内されると、2階に立派な大宴会場があった。
きっと、町の社交場としてクラブの様に使ってほしいとの想いから付けられたのか、と勝手に納得した。

宿に着いたのは、まだ午後2時半なので散歩に出かけることにした。
まず宿で教えられた愛宕公園に行ってみた。
この公園の山の頂上に展望の良い東屋があり、そこからの眺めは素晴らしかった。
野辺地のまちから陸奥湾まで遠望でき、はるか下北半島の山々まで見える。
陸奥湾に沿って、あの下北の道を行くのかと思うと気が引き締まる想いだった。


次の日は、この宿に連泊して休養をとることにした。
岩手県野田村で休養してからちょうど一週間目だ。

休養日でも、朝はいつもと同じ時間に起きて体操、ストレッチをしてから朝食をとる。
それから、洗濯したり諸整理をして、11時頃に散歩に出た。
背負う荷物がないと、こんなに楽に歩けるのかとあらためて思った。
野辺地漁港を目指してブラブラ歩いて行くと「大万旅館」という看板が眼にとまった。
この旅館は最初に予定した宿で、電話をしたら女将さんが廃業したところだという。
そして「電話をして頂いたのに申し訳ない」と何度も謝ってくれたのが印象的だった。
写真で分かるように、歴史を感じさせる見事な構えの旅館である。
電話に出た女将さんの声も品があって、ぜひ泊まりたかったのに残念、の気持ちだった。


野辺地漁港は、遅い春がやって来て、のんびりした中にこれから何かが動きだしそうな雰囲気があった。
そんななかで、岸壁の上に立って遠く海から帰ってくる船を見つめる男性の姿が目についた。
海に生きる男の存在感を漂わす後ろ姿だった。

昼時になって、どこかで食事をとあちらこちらの店を廻るのだが、どこも休みである。
ようやく、今日は日曜日でここもみな定休日なのだと気づいた。
宿に戻っておかみさんに尋ねると、まちはずれにスーパーがあると教えてくれた。
そこへ行って[五目ちらし」寿司を買い宿に帰って食べた。

宿も日曜日は夕食はないと云われていたけれど、食事処がみな休みとは思っていなかったので、どうしたものかと考えてしまった。
そこで宿の近くの居酒屋が開店しているようなので入ってみた。
焼酎お湯割り、おまかせサラダ、モツ煮込み、おにぎり2個とほろ酔いのイイ気分の夕食となった。

宿に帰ると、妻からメールをしたのに返事がないと苦情の電話がきた。
妻からのメールはできるだけ返事することにしているが、このところ疲れていてウッカリしてしまったらしい。
妻だけではなく、他の人にも失礼してしまていると反省するばかりだった。




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