No65 北の大地 編(留萌市〜新十津川町)

留萌から先の海沿いの道は、宿の確保が難しそうだった。
石川文洋さんも著作「日本縦断徒歩の旅」で、トンネル内は歩道がなく歩くのは危険で、増毛町から引き返したとある。
それでこの旅を計画する時から、この先は内陸の道をたどることにしていた。
留萌の次の宿も、石川さんが泊ったJR留萌本線石狩沼田駅前の旅館に決めた。
この行程は、私が原則とした一日最大歩行距離35kmを超えて37km程になるがやむ得なかった。
内陸の道は平坦でないことも予想され、この旅屈指の苦しい旅になると覚悟していた。

今日も晴れて暑くなりそうだ。
留萌の宿を、朝早めに気を引き締め出発する。
ところが留萌駅近くの旅館から市街地を抜けて、国道237号に出るのに迷ってしまった。
ようやく通りがかったタクシー運転手に尋ねたりして、国道に出ることができた。
はやくも気合が空回りして、前途多難な出だしだ。

内陸に向かう旅は、余り風がなく朝から暑かった。
幸いなことは、沿道に民家の日陰が多くあって、休憩場所を探すのに困らないことだ。
JR幌糠駅近くで、ちょっとシャレた建物が見えた。
近ずくと理髪店で、裏側が日陰になっており、台所口のコンクリート階段が格好の休憩場所だ。
ここに腰を下ろして、コンビニで買ったおにぎり弁当をひろげると、台所口から男性が顔を出した。
叱られるかと身構えると、男性は顔を引っ込めて再び現れ、冷えたトマトとトウモロコシを差し出してくれた。
ここのご主人で、さらに水入れに冷たい水を入れて持ってきてくれた。
北海道の人達は、わたしのような旅人に慣れているのだろうか。
この行為がとても自然で驚き、そしてありがたかった。

JR峠下駅の手前に三叉路があり、右へ真直ぐ国道を行く道と左に留萌本線に沿う地方道がある。
どちらでも、沼田町に行ける道だ。
地方道は道路標識が少なく道に迷う恐れがあるけれど、距離が稼げるこの道を行く。

山間の道を抜けて平地に出ると恵比島と云う集落に着いた。
道端の空き地に腰を下ろすと、何かの案内板が眼に入った。
この近くのJR恵比島駅が、平成11年に放送されたNHKの連続テレビ小説「すずらん」のロケ地になったとある。
そのときに造られた昭和初期の駅舎や旅館のセットが、そのまま残されているともいう。
暑さと疲れでクタクタの身で、少しの寄り道も避けたい気分だったけれど行ってみた。
わたしは、残念ながら好評で映画化にもなったこのドラマは観ていない。
それでも、駅舎も駅前の旅館も北海道の昭和初期は、こんなだったんだろうと実感する。
建物の内部も観たかったけれど、時間はすでに午後5時になっている。
目指すJR石狩沼田駅近くの宿は、まだずーと先だ。
急がなければと、写真だけ撮ってその場を去ることに。

たしかに恵比島から宿までの道は遠かった。
距離にすれば6kmぐらいだと思うけれど、疲れと道が不案内なことから、行けども行けどもたどり着けない気持ちになる。
沼田町のキャッチフレーズは、「ホタルの里」だそうだ。
そんな雰囲気が伝わってきそうな沿道風景である。
その道に陽が傾き、長く伸びた自分の影を追いながらとぼとぼ歩く。
沼田町の市街地手前2km地点で、最後の休憩をとった。
それから力を振り絞って立ち上がり、ようやく宿の前に立った時は、心底ホッとした。
時刻は日も暮れかかる午後6時半だった。


次の日は、疲れが相当に溜まっておりこの宿に連泊することにする。

昨日、宿に着いた時は、宿泊客が多かった。
ところが今日は、宿泊客はわたし一人になった。
前日までの宿泊客は、「金帰月来」の長期滞在ビジネス客だそうだ。
それで金曜日の今日は、みんな朝食をとると仕事に出て、そのまま自宅に帰るそうだ。

静かになった宿の部屋で、布団に仰向けになり天井を眺めながらぼんやり考える。
この旅館も、JR石狩沼田駅の典型的な駅前旅館だ。
旅館の前面のデザインは、ちょっと大正ロマンの薫りがする。
建てられた時は、ハイカラな旅館として評判だったに違いない。
建物の中も、そんな歴史を感じさせるものが多い。
しかし、多くの駅前旅館がそうであるように、ここもその栄光の光が消え入りそうに思える。

昼時になって、休養日の定番である、昼食を兼ねた市街地の散策に出かける。
玄関で宿の坊やが見送ってくれたので、パチリと撮る。

真夏の昼時のせいもあって、町全体がガランとした静かな雰囲気だ。
建物等も特に印象に残るものがなく、まちなかの食堂で昼食をとり早々に帰る。

当初の計画では、明日から2日連続で30kmを超える行程になる。
疲労が溜まっているので、もう少し余裕のある行程にならないか検討してみる。
日程途中にある雨竜町や浦臼町の宿に電話すると、みな満室等の理由で予約がとれず諦める。


休養明けの朝は、晴れて気温も33℃と高くなる予報だ。
歩き始めると、休養して身体が軽く、南から北へ涼しい風も吹いて気持ち良い。
北竜町に入ってしばらくすると、道の駅「サンフラワーパーク北竜」があった。
広大な斜面にびっしりとヒマワリが咲き誇って見事だ。
その横には乗馬コースもあって、しばし北海道らしい広々したうつくしい風景を楽しむ。

雨竜町に入った頃にちょうど昼時になる。
折りよくレストランがあり、カツカレーを注文する。
昼食はおにぎり弁当が多く、久し振りのカレーはおいしかった。
雨竜町にも、道の駅「田園の里うりゅう」があり、大勢の人が出入りして賑わいを見せている。
まちの風景は、何となく北欧を感じさせて印象的だ。

やがて、大きな川が見えてきた。石狩川だった。

石狩川は、北海道中西部を流れて日本海へ注ぐ大河である。
流域面積は、利根川に次ぐ全国第2位だ。
長さ268kmは、信濃川、利根川に次いで全国第3位である。

この地点は雨竜町と新十津川町の境界付近で、石狩川の河口から100kmという標識が立っていた。

新十津川の宿に着いたら、4〜5人が部屋で大声で話すのが聞こえた。
その人達と、宿の食堂で夕食が一緒だった。
仲間4人で札幌から1泊2日のゴルフ旅行に来て、明日もゴルフをして帰るのだと云う。
樺太からの帰還者で70歳になると云う男性が、話し上手で賑やかな夕食となった。
近くの役場の広場からは、盆踊りの歌声が聞こえてくる。
盛り上がった話にひと息ついて、みんなで盆踊りを観に行こうとなった。
丁度その時、「盆踊りは、まもなく8時で終わりです」のアナウンスが聞こえてきた。
みんながっかりするとともに、それが潮時になりお開きとなった。



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