No66 北の大地 編(新十津川町〜当別町)

今日は雲が多く気温は昨日より低いけれど、湿度が高く風もあまりない日だ。

そのためか、身体が重く感じる。
昨日は涼しい風のお陰で、疲れを感じなかったけれど、32kmの旅の疲れは一晩ではとれないのかもしれない。
沿道の民家の庭には、美しい花々が育てられていて、そんな民家の軒下に吸い込まれるように座り込んだりする。
ひと息ついて、立ち上がろうとするまでの時間が、少しづつ長くなる。
道の駅「つるぬま}を過ぎて浦臼町の市街地で昼時になる。
折よく食事処が見つかり、親子丼の昼食をとる。
いつもだと、昼食をとると疲労も回復して元気が出てくるものだ。
ところが歩き始めると、相変わらず身体が重い。
浦臼郷土資料館と云うのがあり、前庭が広い芝生地と樹木の木陰に覆われていた。
その木陰にシートをひろげて横になると、30分程眠ってしまった。

それで、少しは元気になったけれど、やはり身体が重くバテ気味の旅が続く。

JR札沼線晩生内駅近くの民家の軒下で休憩したときのことだ。
腰を下ろした斜め前方に、民家と洗濯物を干す庭先が見えた。
特別変わった風景でもないのに、突然、懐かしい日常的な感覚に襲われた。

今日の宿は、月形町の宿泊研修施設「はな工房」と云うところだ。
予約の電話を入れると、この日は満室で、大ホールでよければと云う。
パーテイもできる舞台付きの大ホールだけれど、そこに布団等を用意するとのこと。
ちょっと驚いたけれど、予約することにした。

重い足取りで月形町の市街地に近ずくと、大きな水辺に個性的な形をした幾つもの建物が立つ、明るい賑やかな雰囲気のところに出た。
「皆楽公園」と云うところで、そこに月形温泉「ゆりかご」、月形温泉ホテルと並んで宿泊研修施設「はな工房」もあった。

宿につくと、さっそくその大ホールに案内してくれた。
扉の前には、わたしの名前を大きく書いた立て札が立てられ気恥ずかしい。
中に入ると、たしかに大きなホールで布団等も用意されている。
案内の女性は、「夜はお淋しいでしょうから」と舞台の上にあるスクリーンにテレビ画面を投影する装置の操作を丁寧に教えてくれる。
この宿泊施設は、日帰り入浴もできる月形温泉「ゆりかご」やレルトランと繋がっていて、入浴や食事はそこですることになっていた。
夜、大空間でポツンと一人で過ごすのは、すこし薄気味悪くもあったが、何故か気分が良かった。


次の日は、ここ宿泊研修施設「はな工房」に連泊することに決めた。
三日前に沼田町で休養日をとったばかりだけれど、このところの疲れ具合は休養を欲している。
そして何よりも、私自身、ここが気に入ってしまったのだ。
この宿泊施設は公営施設だけれど、行き届いたサービスをしてくれる。
従業員はみな一生懸命、宿泊客に接してくれる態度が嬉しい。

この日は一般の客室が空き、その部屋に移ることもできた。
きれいな和室で、温泉に浸かっては部屋でゆっくりくつろぐことができる。
月形町は、切り花の産地だそうだ。
ここでは、アレンジフラワー、押し花、ドライフラワーなどの花体験ができ、施設名「はな工房」もそれに由来する。
また、フラワーショップもあり、切り花や鉢花等を販売している。
この日は、結局一度も外出することなく、施設内を見て廻ったり、大勢の人で賑わう温泉に何度も浸かって過ごす。
まさに、休養日として一日過ごすのにもってこいの宿だった。


次の日は晴れて気温は26℃位で、風もあって歩きやすかった。

歩き始めは、股関節が硬く、足にときどき痛みが走った。
ただそれは単発で長く続くことはなく、比較的快調な旅と云って良かった。
途中、出会ったJR中小屋駅は、北海道でよく見かける無人駅のひとつだ。
駅名と駅舎がぴったりで、微笑えみながら写真を撮る余裕である。
低い丘陵地の谷間から、涼しい風がみどりの草原をなびかせながら吹きわたって来る。
そこにたたずんで、極上の気分に浸ったりする。

さらに広々とした平原に出ると、緑の畑地に黄金色した麦畑が混じる風景が続く。
麦畑は刈り入れ時を迎えているようだ。
ここで、途中のコンビニで買ったおにぎりと野菜サンドの昼食をとる。
むかし映画等で驚きをもって観た、大型農機を駆使するアメリカの農村風景が今ここにある、と思ったりする。

JR石狩当別駅の前に着いて、予約した旅館に電話をする。
すると、旅館の小学6年の男の子と小学3年の女の子二人が迎えに来てくれた。
旅館に着いて、すぐに風呂に入り食堂に行くと、コワモテ風のオッサンが一人いた。
「こんばんわ」と挨拶をしても返事もなく、黙々と焼酎を麦茶かウーロン茶で割って飲んでいる。
私もビールを頼んで、テレビの高校野球を観ながら黙って飲む。
女将さんが気まずい雰囲気を察して、オッサンに高校野球の話をする。
すると、オッサンは「俺、鹿児島出身だけど今年の鹿児島彰学は強いんだよな」と溢れんばかりの笑顔で言う。
わたしもホッとして相づちを打つ。
そしてまた、二人静かに酒を飲む。
今日は当別神社の祭礼だそうで、窓の外から祭りばやしが聞こえてくる。

部屋に戻ってテレビをつけると「懐かしのメロディー」をやっている。
この夜は、旅先でひとり味わう「日本の夏」だった。




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