No72 北の大地 編(八雲町落部〜函館市港)

八雲町落部の宿では、夜中に強い雨と雷鳴があった。
宿を出る頃には雨はあがり、少し蒸し暑い。

朝、宿代を支払う時に、ご主人に歩いて北海道一周してきたと話した。
そうしたら、えらく感心してビール代をサービスしてくれた。
お礼を云って歩いて行くと、1kmばかり先のドライブインの前にご主人が立っている。
いつの間にか車で先回りしたらしく、毛ガニを入れたビニール袋をぶら下げて持って行けと云う。
一瞬、荷物になると思ったけれど、有難くいただくことにする。

今日は、森町までの18kmと短い旅だ。
それでも、暑いので冷凍された毛ガニが解けてワルくならないかと気が急いた。
そんなことを気にしながら、JR函館本線石谷駅の前に着いた。
往路の時にも、ここで休憩したことを懐かしく思う。
その時と同じように、駅舎やホームに立った雰囲気に、昭和の風情を感じながらしばしの時を楽しむ。

それからは、ひたすら急いだこともあって、森町の旅館には12時半頃に着いた。
女将さんに事情を話して毛ガニを渡し、部屋に荷物をおいて昼食をとりに街に出かける。
昼食は、ラーメン店でチャーハンセットにした。
宿に帰って、テレビで党首討論会を見てるうちに眠ってしまう。
2時間ほど眠ったようで、身体が硬くほてっていた。
夕食では、女将さんが毛ガニを茹でてくれ、他の宿泊客と一緒にみんなで美味しくいただいた。


昨夜は身体がホテッて、トイレにも何度も起きて熟睡できなかった。
女将さんが前回と同様、昼食用におにぎり弁当を作って送り出してくれた。

今日も少し蒸し暑く心配したが、歩き始めたら意外と身体が軽くホッとする。
それで45分毎のピッチで休息をとりながら歩く。
幸い、日陰で腰を下ろせる場所がその都度見つかる。
昼頃に、保養基地入り口と標識のある交差点付近で、食事処や野菜を売る露店があった。
ちょうど、木陰に座り心地の良さそうな場所があり、そこでおにぎり弁当をひろげることにする。
野菜売りの露店で、トマト3個を百円で買いビタミン補給する。

昼食休憩を終えて、しばらく行くと「さようなら西小沼小学校」と書いた看板が眼に入る。
百六年の歴史を持つこの小学校が、来年の3月に閉校になるとも書いてある。
この旅で、閉校になった小・中学校をどれだけ眼にしたことか。
「少子高齢社会」の進行を、ヒシヒシと肌に感じる。
昭和世代のわたしは、高度成長が終焉してしばらくまで、社会は成長するもの、と当たり前のように思ってきた。
そして、「少子高齢化社会」がやって来ると云われだしてからも久しい。
それを聞いても、わたしは半信半疑で実感が乏しかった。
人口が集中する関東の都市部と違って、地方ははるかにその進行が深化しているのだ。

そこから少し行くと、大沼公園入口交差点があり、その近くで休憩する。
往路でも休憩した場所で、ここから先は快適な森の中の道になるので、ヤレヤレの気分になる。

JR函館本線大沼公園前駅近くの宿には、14時に着いた。
このホテルも、往きに泊った宿だ。
チェックインは15時からというので、荷物を預けて大沼公園を散策する。
公園内は、中国人の観光客が多いのに驚く。

この大沼公園には、一年前に会社の送別旅行で来たことがある。
わずか一年後に、再び歩いてここにやって来るとは、夢にも思わなかった。
こういう人生の機微は、偶然なのか必然なのか、とフト思う。


宿で北海道一周して来たと話すと、女将さんやご主人は驚いたようだ。
それからわたしのことを想い出したようで、大沼公園の今昔をいろいろ話してくれた。
朝、出発する時は、女将さんがいつまでも手を振って見送ってくれた。
早くも道路沿いには、カラフルな観光用三輪車が一列に並べられている。
観光地の朝は、客を待ちうける静かな中にも張りつめた空気が流れている。

今日も少し蒸し暑く、3ヶ月ほど前に来た時と同じだ。
往路で休憩したところに来る度に、その時のことを想い出す。
この電柱の日影で休んだのかと、今は笑ってしまう。
しかし、北の大地を巡る最初の日に、いきなり強い日射しの洗礼を受けた旅人をいじらしく思う。
昼食も来た時と同じ食事処でと思ったが、あいにく休店だった。
別のところをと探すが、なかなか見つからず、ようやくそば屋を見つけてカツ丼を食べる。
昼食後、歩き始めると何故かひどく疲れが出てきた。
沿道でシャターを下ろした店の軒下が、日陰で格好の休憩場所にみえる。
シートをひろげて腰を下ろすと、眠ってしまった。
人の声で目を覚ますと、この店のオーナー夫婦だ。
学習塾の店で、これから開店するという。
あわててお礼を云って出発する。

依然として暑さが厳しくバテてしまう。
今日の函館の宿は、津軽海峡フェリーターミナル近くの旅館にした。
函館に着いた日の宿は、JR函館駅近くだが、明日は青森に向かうのでフェリーターミナルに近い宿に決めた。
それで、赤松街道と呼ばれる国道5号線を通り、桔梗町交差点から産業道路100号へ右折する。
産業道路と云うだけに、歩行者には味気ない日射が厳しい道だ。
函館港町にある宿に着いた時は、ヘトヘトだった。

今夜は北の大地で迎える最後の夜だ。
下北半島の大間町からフェリーで函館に着いたのが、5月27日。
函館で一日休養して、北海道一周に旅立ったのが、5月29日だ。
そして函館に戻った今日は、8月も最後の日となった。
北の大地の旅は3ヶ月強と、ほぼ計画通りに終えることができた。
今夜は、打ち上げでイッパイやりたいところだ。
しかし、外出する元気が出てこない。
それで、宿の食堂へ行くと、夕食はカレーライスに蕎麦のセットと云うシンプルな内容だ。
打ち上げの宴にはチョッと寂しいけれど、この日のわたしのお腹にスンナリ納まるもので良かった。



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