No76 津軽・出羽 編(深浦町浜町〜八峰町滝の間)

台風14号は、深浦地方にはたいした被害を及ぼすことなく通り過ぎたようだ。
宿泊している旅館は、急斜面の下にあって風に対してはブロックされた場所にある。
それで、雨による土砂崩れの方が心配だった。
少し離れた個所で、崖崩れの防災工事をしているのを見ているだけに気懸りだった。

宿を出るときは、雨も風もなく曇りの天気だった。
それが、歩き始めてしばらくすると、時折り、小雨と強い風が吹くようになる。
取り出した折りたたみ傘の骨が、たちまち折れてしまう。
雨が止んで、日本海の荒波を撮ろうとバッグからカメラを取り出すと、また降り出すの連続でマイッた。

そんな苦労をしながら、「ゆとりの駐車場」というところに着いた。
そこからの眺めは、疲れもすっ飛ぶほどの素晴らしさだ。
眼下の左手は黄金色の稲田で、右手は日本海から押し寄せる荒波である。
そして遠くは白神の山なみが連なる。
ちょうど雲間から陽ざしも射して、荘厳な演出も加わった。
夢中になって写真を撮ったりして、しばし時を忘れる。

今日の宿は、岩崎村(現深浦町)にあるJR十二湖駅近くの「民宿静観荘」のつもりだった。
電話で宿の位置を尋ねると、手前のJR陸奥岩崎駅の近くだと云う。
不思議に思ってさらに問うと、民宿の方は今はレストランだけで、宿泊はこちらの「白神温泉静観荘」に電話が誘導される仕組みのようだ。
この説明に、思いがけず行程が短縮されることや、「白神温泉」という魅力に頭より先に身体が納得する。

宿には、午後2時前に到着する。
部屋に案内されると、すぐに温泉へ。
浴室に入ると、浴槽の広いガラス窓のすぐ前をJR五能線が通っている。
入浴中に列車が通り、浴槽のわたしと五能線の乗客と目が合ってしまう近さでビックリだった。


次の日は、カラッとした素晴らしい天気になった。
宿を出てすぐに、可愛らしい靴が三足目にとまる。
この旅では、子供たちの声がめったに聞こえてこない。
昭和の時代は、全国どこへ行っても子供たちの駆けまわる声が聞こえたものだ。
こうした田舎では、子供どころか人の声もしない静寂が漂う。
そんななか、子供の気配がするこの靴にちょっと癒やされる。

今日も日本海と五能線が旅の友だ。
それに黄金色に色ずく稲田が加わる。
ところどころ稲の刈り入れも始まっている。
実りの秋。
そうだ、暑い暑いと思っていたら、いつの間にか秋の気配だ。
よく見れば、ところどころですすきの穂が揺れている。
JR十二湖駅、海に面して赤い鳥居が立つ「熊路宮」、白神岳登山口等で休憩をとりつつ進む。

そして昼頃に「大間越ロマンの里」という所に着く。
壁に「簡易保険融資施設」と書いた銘版を張った大きな店舗が眼についた。
食事ができるかもと期待したが閉まっていた。
仕方なく建物の日影に腰を下ろして眼下の海を眺めて休憩する。
この浜辺は、大間越影の浜海岸と呼ばれる美しい渚だ。
国道101号線は、大間越街道と呼ばれ、やがて秋田県境に向かって険しい山道になる。
その県境に大きな食堂があり、そこで遅い昼食にしようと入る。
ここは眺望が良いせいか、大勢の観光客がいて賑やかだ。
交通安全母の会という団体が、駐車場で秋田から青森へ活動の引き継ぎ式を行っていた。

県境を過ぎて秋田県八森村(現八峰町)に入るとすぐに、道の駅「はちもり」に出会う。
はちもりと聞くとハタハタである。
宿の夕食に、ハタハタが出るだろうかと少し急ぎ足になる。

今日の宿は、八森村のJR滝ノ間駅付近にある民宿だ。
近くに着て、宿に電話して尋ねると、駅から離れた海側にあって分かりずらかった。
宿に着いたのは、午後5時近くでかなり疲れた。
おまけに立ち上がったりするときに、左腰に痛みが生じる。
ここは海鮮料理が売りの宿なのか、品数の多い豪華な夕食だ。
自分の部屋で食事というのは良いけれど、それには奉仕料500円がかかる、と後で知る。
宿泊客はわたし一人で、食事する部屋と寝る部屋の二部屋を自由に使って良いという。
しかし、廊下を挟んだ二部屋は使いづらかった。




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