「一期一会」 宿編Ⅰ

「一期一会」とは、一生に一回しか会う機会がないような、ふしぎな縁(岩波国語辞典)を云うそうだ。
日本一周徒歩の旅で、お世話になった宿はみんなそんな「縁}を感じる。
代々続く旅館では、宿泊客を「一期一会}として大切にもてなす伝統があるように思う。

そんな宿として強く印象に残っているのは、北海道のM旅館である。 旅館の上り口に「一期一会」の木彫りの版を掲げて、旅館のモットーにされている。
左の写真は、その木彫り版を前にした宿のご主人夫婦である。 千葉県の銚子から歩いて来たと話したら、ご主人はたいへんに感動されていろいろと気を使っていただいた。 夕食のときには、話し相手になってくれて、町の歴史やご夫婦の思い出話などをしてくれた。 ご夫婦はかつて千葉県津田沼に7年ぐらい住んでおられたが、この旅館を親から引き継ぐために戻られたそうである。

私もかつて千葉に勤務したことがあり、千葉での互いの懐かしい思い出話で会話が弾んだ。 これも、ふしぎな「縁」かと強く感じたものだ。

そんな楽しい夕食を終えて部屋に戻ると、ご主人が左の写真にある小冊子を持って現れた。 「一期一会}のご縁で、ぜひ一筆書いてほしいといわれた。 この時の旅は、千葉県の銚子から太平洋沿いを北上し、北海道を一周して日本海沿いを下って石川県の金沢まで、日本を半周する計画だった。 しかし、計画を立てたもののわれながら半信半疑でどこまで行けるか確信がなかった。 ようやく旅の最終目的地を他人に話せるようになったのは、北海道を一周して本土に戻ってからであった。 だから、一筆書いてほしいと言われた時はまだ、旅の全貌を書くのがはばかられた。

「一期一会}の冊子には、千葉の銚子を発って、歩いて105日かかてここまで来たことだけを記した。 そして最後に、「旅の良き報告ができることを願っています。」と結んだ。
日本を半周して帰宅後に、上記のご夫婦の写真を添えて旅の報告とお礼を兼ねた手紙を出した。 そうしたら、お祝いにと北の大地の野菜をどっさり送っていただいた。
野菜と一緒に、「一期一会}の縁をしっかりと味わいさせてもらった。