日本一周徒歩の旅では、宿は必ず事前に電話で予約することにしていた。
旅館や民宿では、電話口に出るのは大抵は女将さんである。
いつしか、わたしは電話の女将さんの話し方で、その宿の雰囲気が想像できるようになった。 女将さんの声が、明るく優しそうだと宿に着くのが楽しみだった。
そんな宿は、早めに着いても、女将さんはずーと待っていてくれたかのように迎え入れてくれる。 部屋に案内して室温に気を使ったり、すぐにお風呂の用意もしてくれる。 寝具や洗面具等の用意も抜かりなく気配りしてある。 夕食は、心をこめた手料理で孤独な旅人の話し相手にもなってくれる。 時には、女将さんの波瀾万丈の苦労話に引き込まれたりもする。 出発の朝は、玄関でのあいさつがつい長話となり旅立ちが遅れてしまったこともある。 こういう宿で、旅人はどんなに癒され元気をいただいたことか。
いまや、「見知らぬ人には挨拶してはいけない!」と子供に教える親がいる、というご時世である。
しかし、戦後60年の日本の宿では、まだまだ人情味あふれる女将さんが大勢健在だった。
日本一周徒歩の旅を完遂できたのは、こうした女将さんたちのお陰と感謝、感謝である。