日本一周徒歩の旅の行程では、海を渡るとき以外は乗り物を使わないと決めていた。
さらに決して野宿はしないで宿をとることも大原則とした。
そして宿を選ぶ基準は、次の3点だった。
1 一日の最大歩行距離30km以内にあること。
2 一日の予算一万円以内におさまる宿泊料金であること。
3 できるだけその土地に根ざした一般的な宿であること。
しかし、結果から言うとこの基準は3点とも守れなかった。
大都会ではまだしも、地方へ行くほどこの条件で宿を確保するのは困難だった。
むしろ、一度も野宿をすることなく、しかも乗り物も使うことなく日本一周できたことは
奇跡に近い幸運だったように思う。
まさに宿は選ぶものではなく宿に選ばれたというのが実感である。
一日の歩行圏内では一軒の宿しかなく選択の余地がないことも多い。 また、たまたま工事関係者等の予約で満室だったり、当初予定した宿は廃業になっていたり、 一人客はお断りとつれなくされたりといろいろなことがあった。その都度、電話帳等から 他の宿を探したり、見つからない時は行程を変更したりの対応に追われることがしばしばだった。
それだけに泊まることができた宿は、「一期一会」のご縁を感じたものだ。
今日の宿は、どんな所のどんな感じの宿かと歩きながら想像することは楽しみでもあった。
旅の経験を積むにつれ、予約の電話で女将さんとのやり取りから、だいたい宿の雰囲気を想像できるようにもなった。
気がつけば、前章で挙げたように実に様々な宿に泊まることになった。