日本の宿、特に旅館や民宿では、見ず知らずの宿泊客どうしが親しく語り合う機会がよくある。 「旅は道づれ世は情け」とか「袖すり合うも他生の縁」の諺があるように、日本人の持っているメンタリテイがそうさせるのか。 たまたま、宿泊客どうしのフィーリングが合ったからなのか。 あるいは、宿のご主人・女将さんが醸し出す雰囲気に誘われてなのか。 いずれにしても、日本一周徒歩の旅では、宿で、「一期一会」としか言いようのない人との出会いが何度かあった。
真っ先に思い出すのは、北海道のある民宿での出会いである。
その日の宿泊客は、歩く旅のわたし、バイクの喜多さん、自転車の酒井さん、それにランドクルーザーにパラモーター(エンジンとファン付きのハングライダー)
を乗せた甲斐さん夫妻の5人だった。
北海道を移動手段を異にして旅する4組が、偶然にも一堂に会した。
その日の夕べは、宿のご主人夫婦も加わって、それぞれの旅の蘊(うん)蓄を語る楽しいひと時だった。
先ずは、自転車旅行の酒井さんが、6月の中頃とはいえ寒さで震えた体験のもろもろを語る。
バイクの喜多さんは、「疲れてくると、目を開けて眠りながら運転することがある」等と嘘ともホントともしれない話をする。
白い髭の品の良い顔立ちの甲斐さんはさり気なく、ランドクルーザーで北の大地を巡って、
気に入ったところをパラモーターで空から眺める話をされる。
そばで奥さんは微笑みながら「車の運転免許は退職してから取得したんですよ」と補足される。
わたしは、「No25 夕食はインスタントラーメン!」で記した宿の体験などを語る。
実に愉快な夜だった。
旅が終わって、それぞれと手紙等のやり取りをしている。甲斐さんは、この旅の1年半後に一人でバイクに乗ってシルクロードを走破された。
なんとも恐れ入った素晴らしい冒険者である。