今日も晴れた。
いざ出発と部屋の窓から外を見下ろす。
すると駐車場で、昨夜夕食で一緒になった女性ライダーが、オートバイにまたがって出発するところだ。
急いで窓からカメラを構えると、にっこり笑って手を振ってくれた。
若い女性がバイクでひとり旅をするのは普通のこと、になったのはいつ頃からだろうか。
その颯爽とした姿を見送りながら、フト思う。
ホテルを出て、砂丘の中の道を行く。
砂で作った大きなアート作品が目を引く。
すこし砂丘でゆっくりしたい気がする。
しかし先は長いと、急ぐことに。
砂丘を過ぎて、トンネルを通り坂道を下ると国道9号と交わる。
この国道9号はバイパス道路で歩行者は行けないようだ。
それでそのまま、旧道を行く。
千代川を渡ると、JR山陰本線と並行する道になる。
山陰本線鳥取大学前駅を過ぎてしばらくすると、広大な水辺に出る。
道路地図をみると、日本でいちばん大きな池「湖山池」だ。
ここで休んでくださいとばかりに、歩道横に自販機が設置されている。
缶コーヒーを買って、自販機のコンクリート土台に腰を下ろす。
手前の梢の新緑と池に浮かぶ小島の桜が、春霞みのなかで穏やかに調和する。
そんな風景に目を細める旅人を、目の前の道路を車で通る人たちは一瞥して過ぎる。
湖山池のところから小一時間ほど行くと、「白兔海岸」と書いた大きな看板が見えた。
この看板をみれば、誰しも「因幡の白うさぎ」の物語を思い出すに違いない。
「浦島太郎」、「かぐや姫」、「もも太郎」等とならぶ日本の有名なむかし話だ。
童謡・唱歌にもなっている。
古事記に記されるこの伝説の地は、ここ白兔(はくと)海岸といわれる。
ちょうど昼時で、海岸沿いにうどん店があり入ることに。
白兔うどん(300円)+ごはん(100円)を注文する。
昼食後、「白兔神社」があると云うので行ってみる。
石の鳥居が建つ参道前は、道の駅の建設中でバタバタしていた。
参道を上がって行くと、森の中にこじんまりとした神殿が建っている。
ここは、白うさぎが身を乾かした丘だといわれる。
神殿の石段下には、うさぎが身を洗ったという「御身洗池」もある。
本殿の土台には、皇室の菊花をあしらった石が使われている。
ひとり、森閑とした神殿の石段に腰を下ろし、悠久の神話の世界をさまよう。
今日の宿は、鳥取市気高町の浜村海岸にある民宿だ。
その浜村海岸の東側に「龍見台」という展望台があった。
日本海が180度に拡がる大パノラマが見られる。
その海岸線を眺めると、幾つもの白い波が浜辺に打ち寄せる。
目を凝らしていると、その白い波は、白うさぎが飛び跳ねている様に見えてくる。
宿は海岸から少し離れた陸側にあり、電話で尋ねがら到着する。
割烹民宿とうたうだけに、夕食はいろいろあってボリュームたっぷり。
ビールを頼んだら大びんで、もう苦しいぐらい腹一杯となる。
浜村海岸は、民謡「かいがら節」が生まれたところ。
朝食の時、宿のご主人が、かいがら漁(ホタテ貝漁)や鯛漁等の漁法の話をしてくれた。
どちらもこの地独特なもので、舟の動力等すべて人力に頼った時代は、大変な労力のいる漁法だった。
「かいがら節」の出だし「なんの因果で貝殻こぎなろた」の一節がしみじみする話だ。
今日も日中は晴天の予報で、元気に出発。
ところが、良いことと悪いことは裏表の関係があるようだ。
好天が続き花粉もイッパイに飛んでいる。
花粉症の旅人は、眼や鼻がグズグズし、特に今日は鼻水がひどい。
宿を出て一時間程が過ぎ、漁船と民家が小さな漁港を包み込むように見える坂道になる。
そこをさらに進むと、「魚見台」という展望台があった。
先ほどの漁港が真下に見える。
ここは、むかしイワシの魚群を見張ったところだそうだ。
休憩がてら、何枚かの写真をとる。
井手ヶ浜というところも、「鳴る砂」の海岸だと云う。
浜辺に降り立ってみたけれど、ここも砂は鳴かなかった。
それでも砂浜に打ち寄せる波が美しく、撮影に夢中になる。
同じ波は決して二度とは現れないことを知る。
今日の目的地は、倉吉市の中心市街地だ。
そこへ行くには、国道9号の泊村原交差点から南へ向かう地方道になる。
その交差点の少し手前にある山陰本線泊駅の待合室で休憩する。
待合室に大きな赤い字で「東京往復割引きっぷ」と書かれたポスターが貼られている。
倉吉から東京都区間が33200円という。
従来線、新幹線共に特急指定券付だ。
安いか高いか分からないけど、この地の人にとって東京は遠そうだ。
泊村原交差点から山陰本線に沿う道を歩きながら食事処を探す。
昼時はとっくに過ぎても、沿道にはそれらしきものもない。
とうとう「東郷湖」という大きな湖の湖畔に到る。
東郷温泉という温泉街があり、きっと食事処が見つかるはず、と急ぐ。
ところが、温泉街の玄関口山陰本線松崎駅の前になっても見つからない。
見つけたと思ったら、閉店か廃業の店だ。
諦めかけた街のはずれで軽食店を発見。
ここで、ようやくチャーハンにありつく。
今日の宿は、山陰本線倉吉駅近くの旅館で16時少し前に着いた。
宿の玄関前は、枯山水の庭があり年代と品格を感じさせる旅館だ。
それでいて、宿泊料金は割安だ。
倉吉は白壁土蔵群と赤瓦のまちで有名だ。
この旅で楽しみにしていたところのひとつだ。
その旧市街地は、JR倉吉駅前からバスで18分のところだと云う。
本来の倉吉駅は、旧市街地にあったそうだ。
そこまでは倉吉線が通っていたが、廃線となり今の山陰本線の駅が倉吉駅になった。
旅館に荷物を置いて、さっそくバスで旧市街地へ。
バスから降りて、白壁倉庫群のところへ行き写真を撮る。
さらに次をとシャターを押しても撮れない。
このところ三度ばかりこんなことがあった。
このCF(メモリーカード)の特定のところでエラーが発生するようだ。
もう1枚のCFは容量イッパイまで撮り終えている。
写真を撮るのを諦めて、ゆっくり街なかを散策することに。
白壁土蔵の数はそれほど多くはない。
むしろ、昭和30~40年代のまち、といった風情が印象的。
シャターを下ろした店もなく、街全体が夕暮れ時の活況を呈している。
それでいて、時間がゆっくり流れている雰囲気が魅力だ。
約1時間程の散策で、ふたたびバスで戻る。
宿の夕食に「馬刺し」が出て、なかなかおいしいものだった。