日本一周てくてく紀行

No.94 越前・中・後 編(能美市大浜町~福井県あわら市)

今日は午後から雨の予報。
しかし朝は、予想外の好天気だ。
宿の女将さんに見送られて、今日の目的地、加賀市大聖寺に向けて出発。
昨日できた足のマメはおとなしく、さほど痛みもない。
疲労の蓄積もなく快調に進む。
時折り見かける街道の民家は、どっしりした構えで魅力的だ。

梯川を渡ると、有名な「安宅の関所」跡があると云うので寄ってみる。
安宅住吉神社というのがあり、その裏手の林の中に「安宅関址」の彫が入った石柱が建っていた。
周辺は、駐車場、レストハウス、歌舞伎「勧進帳」の義経、弁慶、富樫左右衛門の銅像が建つ広場等が整備されている。

その昔、栄華を誇った平氏を滅亡に追いやり、源氏の世となった。
源平の戦の最大の功労者義経は、源氏政権の長となった兄頼朝に疎まれるようになる。
文治3年(1187年)、頼朝の追討を逃れて奥羽平泉を目指す義経と弁慶の主従は、この「安宅の関」にいたる。
弁慶は東大寺復興勧進の役僧に、義経は荷人夫に扮して、関所を通り抜けようとはかる。
しかし、関守の富樫左右衛門は、荷人夫役の義経に疑いを持つ。
すかさず弁慶は、主人の義経を手に持った金剛杖で激しく打って疑いを晴らそうとする。
それを見た富樫左右衛門は、義経一行と気付きながらも、弁慶の胸の内に心うたれ関所を通す。

レストハウスでコーヒーを飲みながら、そんな勧進帳の名場面に想いをめぐらす。
思いの外時間をとったことに気付き、ハッと腰を上げて出発する。
その先の道は、小松空港やゴルフ場の脇を進む長い単調な風景が続いた。
伊切町と云うところで昼時になり、食堂を見つけてそこで親子丼を食べる。

昼食後、のんびりした道を行くと、14時頃急に空が曇ってポツリポツリと降り出した。
あわてて雨装備にして道を急ぐ。
徐々に雨足が強くなり、加賀市の市街地に入って今日の宿に電話する。
ラッキーなことに、宿はそこから直ぐのところだった。
宿は1階が寿司店のビジネス旅館で、着いてしばらくすると雷を伴う激しい雨になった。
玄関に入って声をかけても返事がなく、しばらく待たされる。
ようやく女将さんが外から帰って来て、部屋に案内してくれた。
女将さんは、歩いて日本一周していると話しても、「フーン」と云って関心なさそう。
部屋は小ぎれいな和室で風呂はすぐに用意してくれた。
夕食の料理も美味しく、休肝日にしたのが少し悔やまれた。

翌日も天気予報は、曇りのち雨または雪。
雨が降らないうちにできるだけ先に進もうと、大聖寺川沿いの国道305号の道を急ぐ。

大聖寺川の河口付近で、寺や赤い幟が目立つ不思議な雰囲気が漂う所に到る。
何だろうと歩いて行くと、豪壮な寝殿造りの木造建築物が現われビックリ。
近づいてよく見てみたいと思ったけれど、雨が気になり通り過ぎる。
後で調べてみると、この地は吉崎御坊と呼ばれる浄土真宗本願寺派の聖地のようだ。
本願寺第八世蓮如上人が開いた地で、この建物は五つある蓮如上人記念館のひとつ「鳳凰閣」という。
総檜木寝殿造りで、喫茶や食事もできるスペースがあり、付随する美しい回遊庭園もあるそうだ。
通り過ぎてしまったことが悔やまれる。

吉崎御坊の地から福井県になり、その先は細長い「北潟湖」沿いの道になる。
そこを過ぎて、さらに寒空の農村を抜けると芦原温泉の市街地になる。
昼時で食事処を見つけ、カツ丼の昼食をとる。
昼食後歩き始めると、グッと冷え込んできて粉雪が舞うようになる。
今日の宿がある三国町(現あわら市)へ急ぐ。

旅の計画では、今日の宿は三国町越前松島の休暇村にする予定だった。
昨夜、そこに予約の電話をしたら既に満室だった。
それから、あちこちの旅館やホテルに電話しても、満室とか一人客はドーモね等といって断られてしまった。
困って三国町観光協会に電話したら、一人客は三国市街のビジネスホテルしかないと二つの電話番号を教えてくれた。
そのひとつは満室で、最後の頼みの綱となったホテルでようやく予約がとれた。
「風の杜」と云う名のホテルで、電話で場所を尋ねながらたどり着く。
着いてみると、九頭竜川の河口に沿う三国町の市街地を見下ろす高台にあった。
天然温泉場の宿泊もできる「天然温泉館」と云った風情だ。
部屋は床の間付きの10畳の和室に展望ルームが加わるなかなかのものだ。
展望ルームからは、九頭竜川の河口から日本海も見渡せる。
まだ14時頃なので、ここから2km弱位と云う東尋坊に行ってみようかと思った。
しかし、雪が舞う状況なので無理しないことにして温泉にゆったり浸かる。
湯からあがる頃に案の定、吹雪となり行かなくてよかったとホッとする。
夕食は付属のレストランで別途料金だけれど、宿泊料金と合わせても高くはない。
最後の残りくじを引いた感じの宿が、歩く旅人にピッタリの宿で、つくづく「ツイテル」と思った。