日本一周てくてく紀行

No.71 北の大地編③(長万部町~八雲町落部)

この日本一周徒歩の旅は、日本列島の海沿いの道を巡るのを原則にしている。
だから岩内町雷電温泉から日本海沿いをたどって函館に戻りたかった。
だが寿都町から先の海沿いの道で、ところどころ宿の確保が難しそうだった。
それで、寿都町から太平洋側の長万部町に抜けることになった。

長万部で連泊した朝には、雨は上がっていた。
今朝もコンビニへ行って朝食のサンドウィチと牛乳等を買う。
ついでに、JR長万部駅周辺を散策する。
駅前のシャッターを下ろしたままの店頭に、鮭の干物が4匹ぶら下がっている。
長万部に着いた85日前と全く同じ状態のままだ。
大きく口を開け歯をむき出しにして、黒くカラカラに干からびた鮭は、何か訴えているかのようだ。
前回の宿泊で、宿の女将さんが語ってくれた苦労話しと重なって、長万部のまちの苦悩を訴えているように見える。

今日の長万部から八雲町本町までの旅は、32kmの長い道のりになる。
雨あがりで風もあって歩きやすい天気だ。
時々、にわか雨が降るけれど、噴火湾や駒ケ岳が良く見える。
そして何よりも、もと来た道をたどるのは、家路につくようでちょっと心浮き立つ。
少し強い雨が降って来た時、往路の時に入ったレストランが見えった。
駆けるようにして、そのレストランに入る。
昼時なので、前回と同じ焼肉定食を注文する。
食べ終わった頃、レストランの女将さんが「どこから歩いて来たの」という。
「北海道を一周してきた。往路もここで昼食をとった」と話したら、かすかに憶えている顔になった。

風はずっと吹き続いて涼しいけれど、後半はさすがに疲れが出てきた。
往きの時は霧が出て良く分からなかった景色が、今日はスッキリ遠くまで見える。
そんなことに驚きながら、JR八雲駅前に着く。
今日の八雲駅前の宿も、往きと同じ旅館だ。
部屋は前回よりも少しランクが上と云った感じで、トイレと洗面所付きだった。
今日は土曜日で宿の夕食はないと云うので外食することに。
まちに出てどこで食事しようかと迷ったが、結局、前に来た時、昼食をとったそば屋に入る。
その時と同じ親子丼に白魚のかき揚げと生ビールを注文する。
昼食もそうだったが、つい往路の時と同じ店で同じ料理を選んでしまう。
それは、そうすることで、往く時の気分を想い出すからだ。
その想い出は、やがて北海道を一周してきたという実感に変わる。

それはさておき、かき揚げはおいしかったけれど、少しお腹に重かった。

夜寝るとき、羽毛布団とタオルケットの両方をかけると暑く、片方だけだと寒い感じで何度も目が覚めた。

次の日の朝、昨日の疲れと熟睡できなかったせいか身体が硬かった。
今日は、八雲町落部まで16km程の短い旅だ。
それを励みにして、元気を出し出発する。
往路の道は、霧が深く景色を楽しむ機会がほとんどなかった。
それが、今日は噴火湾も駒ケ岳も惜しみなくその全貌を披露してくれる。
3ヶ月程の旅で、北の大地はすっかり旅人に気を許してくれている、かのようだ。

天気は良いが、昨日ほど風がなく少し蒸し暑い。
それで、徐々に身体が重くなり足取りが鈍る。
今日はショートの旅だからのんびり行こうと心に決める。
そうして周りをみると、けっこう写真心をそそるものがある。
浜辺付近の茶色から沖に向かって徐々に濃いブルーに色調を変える噴火湾。
そしてその上にぽっかり浮かぶ大きな白い雲。
幾年も風雪に耐えてきた民家の佇まい。
気が付けば、短い道程でこんなにシャターを切ったのかと驚く。

今日の宿は、八雲町落部集落の先にある往路で泊まった民宿だ。
後半は一時間も上り坂が続くこともあってきつかった。
それでも、その民宿には14時15分に着いた。
入口のドアーを開けて声をかけても、誰も出てこない。
前回の経験で、宿の人は、さらに先にある民宿名と同じ名前のドライブインにいると思う。
それで入口にある食堂のテーブルで新聞を読んだりして待つことにする。
しかし15時過ぎても誰も来ないので宿の電話番号に電話する。
すると、食堂横の和室の部屋を使てくださいと云う。
部屋は二間もあって、トイレと風呂場も近い。
トイレの横には有料(200円)の洗濯機があり、さっそく汗を吸った衣類を洗濯する。
それから、テレビを見ながら少し眠ると元気になり、昨日と今日の日記をつける。