日本一周てくてく紀行

No.140 山陽 編①(防府市八王子~光市室積)

今日の天気予報は、一日雨で昼頃は強い雨になるという。
それで、雨が降る前にできるだけ先に進もうと急ぐ。
防府市街地の旧道を行くと、周防国衙跡という旧跡があった。
寄ってみたい気になるが、先を急ぐことに。

旧道は、JR富海駅近くで防府バイパス国道2号に合流する。
防府市と周南市境にある椿峠を越えると、不思議な雰囲気の建物に出会う。
渋い石州瓦屋根の豪壮な建築に看板や赤と白の提灯等、やたらと装飾が多い。
近ずくと、「庄屋」の名が付く食事処だった。
興味が湧いて入ってみたかったけど、まだ11時頃でお昼にするには早すぎる。
それで、近くにある自販機がいっぱい並べられた休憩コーナーで休むことに。

さいわい雨は降らず曇りの天気が続く。
国道2号は、旧山陽道と交差したり並行したりしている。
時々、その旧山陽道に入ってみる。
戸田と云うところでは、石積みと石柵でかこまれた小さな池に祠が祀られていた。
池の中をのぞくと、水面に出た石の上で3匹の亀が甲羅を干している。
水の中では、1匹の亀が気持ちよさそうに泳ぐ。
池は道路に沿って流れる石積の水路とつながる。
「水神様」と呼ぶべきか、今も大切に祀られている。
この旅では、集落に入り込むと、必ずと云ってよい程その土地の神を祀る箇所に出会う。
その形態は様々だけれど、石と注連縄は欠かせないようだ。

天気予報通り昼頃に雨が降れば、その間に昼食休憩しようと思っていた。
しかし、昼頃になっても雨は降らず曇りの天気が続く。
そして、昼食にしたくても、食事処が見つからない。
JR山陽本線戸田駅前を過ぎて夜市という交差点のところで、ようやくコンビニを見つける。
タマゴサンド、薄皮あんぱん、それに牛乳を買って昼食にする。
すると、自転車に乗った男性が話しかけてきた。
東京都江戸川区の松浦さんと云って、自転車旅行中だという。
偶然にも私と同じ旅立ち日、3月27日に東京を発ち、20日で九州一周して帰るところだという。
当初は友人と二人だったけど、途中で旅が嫌になり自転車を放棄して列車で帰ったそうだ。
野宿が原則で、10日に一度、宿をとるペースだという。
ある時、子連れのイノシシに襲われたそうだ。
こういう時は、逃げてはいけないという。
では、どうやって難を逃れたんですか、と聞く。
そういう時はイノシシの眼を見ながら、語りかけなくてはいけない。
どう云って?
「オチツイテ、オチツイテ」というんだ。
「誠意を持って語りかければ、動物にも通じるんですね」と私が云って、二人で大笑い。
さらに野宿中に、自転車と荷物を盗まれたこともあったという。
幸いお金だけは身体に付けていて無事だったそうだ。
自転車は3台目と云って笑うと、前歯が4本位欠けている。
55歳と云う彼にしても、大変な旅だったに違いない。

予約したホテルは周南市のJR新南陽駅の近くにあった。
チェクインの15時少し前に着いたけれど、すぐに部屋に通してくれた。
お陰で風呂に入り、洗濯も済ませゆっくりする。
夕方になって、近くのコンビニへ行き、幕の内弁当、サラダ、缶ビールを買う。
それをホテルの部屋でテレビを見ながら食べる。
北朝鮮がミサイルを6発発射したニュースで持ちきりだ。

次の日は曇りで比較的涼しく気持ちのよい天気。
ホテルから少し北上して、国道2号を行く。
国道からは、市街地と徳山湾の臨海工業地帯が見渡せる。
徳山の市街地の中を、まるで蛇の様に新幹線が通り抜けて行く。
このところ休憩間隔は30~45分位になってしまう。
ところが今日は1時間を越えて最初の休憩を周南市美術博物館前でとる。
開館前の入口横のベンチに腰を下ろす。
館周りを掃除しているおばさんと立ち話をしたり写真を撮ってもらう。

国道2号は、下松市の末武中の立体交差点で二手に分かれる。
国道2号は左手の内陸に向かう。
もうひとつは、国道188号となってそのまま臨海部を行く。
その国道188号に進んで下松市の市街地を抜けると、沿道から店も自販機も消える。
のどが渇き昼時になってもそんな沿道が続く。
やっと、虹ヶ浜海岸のところでレストランが見つかる。
歩く旅人には敷居が高そうな雰囲気のレストランだけど入ってみる。
内部もシャレた雰囲気で、大きなガラス窓には瀬戸の海が拡がっている。
ランチにシェフの気まぐれコース(1500円)というのがあり、ここの最低価格メニューだ。
オードブル盛り合わせ、白身魚と貝柱のソテー、デザート、コーヒー付きだ。
それをオーダーして、眼の前の海岸風景を見ながら待つ。
運ばれてきた料理はさすがにおいしく、ビールかワインが欲しいところ。
しかし、昼間のアルコールは歩く旅人のご法度。
それに汗をイッパイかき疲れた身には、こういう料理は上品すぎてまどろこしい。
そんな複雑な想いで辺りを見廻すと、中庭の向こうにも広い部屋がある。
どうやらここは、結婚式場に付属するレストランのようだ。

昼食後は晴れて少し暑くなる。
それでも湿度が低いのか、それ程のこともなく16時に宿に着く。
今日の宿は、光市にある「かんぽの宿」だ。
高台にあるホテルの敷地入口には、「ひかり室積温泉」と書いた大看板が立つ。
部屋に入ってカーテンを開けると、思わず声が出る絶景だ。
右手に室積漁港とその先の左手には小島が浮かぶ瀬戸の海。
夕もやのかかるその海を眺めていると、あの歌が聞こえてくるようだ。

 瀬戸は日暮れて 夕波小波
 あなたの島へ お嫁にゆくの

昭和47年に小柳ルミ子が歌って大ヒットした「瀬戸の花嫁」だ。

さらに夕陽が傾き、灯がともる室積港の眺めは、いっそう旅情をそそる。
そんな眺めを堪能して温泉に浸かり、そしてマッサージ機で身体をほぐす。
夕食では、生ビール半額と云うのにつられ、もう一杯いきたくなる。
何故か酔いたくなって、熱カン一本と声をかける。
ほろ酔い気分で窓の外を眺めながら、「ゼイタクな旅だ」とつぶやく。