日本一周てくてく紀行

No.79 津軽・出羽 編(秋田市土崎~由利本荘市肴町)

大雨でここ秋田市のビジネスホテルに連泊し、次の朝はカラッとした晴天になった。
ホテルを出る時、ペルシャ猫のミミを前にした女将さんに、カメラを向けるとにっこり微笑んでくれた。
朝の出かけのこうしたちょっとしたやり取りで、気分の良い旅立ちとなる。

宿から国道7号に出ると、朝の交通ラッシュ時で大型のトラックが目立つ。
秋田市の中心市街地に近ずくと、丸い兜のような屋根を持つ建物が見えてきた。
秋田市立体育館だった。
日本の建築としては珍しい個性的なデザインで存在感のある建物だ。
そこから少し行くと、臨界十字路という交差点になる。
ここを左に回ると、秋田市役所と秋田県庁がある通りになる。

国道7号は、反対の右方向にそれる。
ここからは、7号バイパスとも呼ばれて、市街地を迂回する道だった。
平坦で広い歩道のある道だけれど、沿道風景は単調で味気ない。
ときどき見えるのは、ススキの原野と畑地の先に見える日本海だ。
海面が緑がかった青い海原と真っ青な空に浮かぶ大きな白い雲が、旅人を慰めてくれる。

やがて国道は、日本海とJR羽越本線に挟まれた海沿いの道になる。
連泊して疲れがとれ、身体が軽い。
すすきの穂が揺れ、海面はキラキラと輝く。
前方には鳥海山が見え、秋風が背中を後押ししてくれる。
今日の行程は28kmと比較的長い。
すがすがしい天気と風景に励まされ、順調な足取りで宿の1km程手前の道川交差点に着いた。
しかし、そこでホッとしたのがいけなかった。
今日の宿厚生年金休暇センターは高台にあって、そこからの上り坂がきつかった。

その甲斐があって、宿の大浴場から望むサンセットはすばらしかったのだが。

次の日の朝、起きると昨日の最後の上り坂で溜まった疲労が残って、右足太ももが張っていた。
真向法体操等のストレッチをしたら、消えたのでホッとする。

今日も秋晴れだ。
元気よく宿を出て、昨日の坂道を下り国道7号に出る。
歩いている時は少し汗が出るけれど、日陰で休むと汗がスーと引いて気持ち良い。
国道7号に入って間もなく、沿道に古い土蔵が見えた。
近ずくと、なんとも云えない風情があって魅了される。
それを写真に収めてしばらく行くと、今度は巨大風車と西欧風建物が見えてくる。
道の駅「いわき」だった。
国道から下りて、周辺を歩いてみる。
総合交流ターミナル、農産物直売センター、活魚センター、日帰り入浴施設、オートキャンプ場等がある一大観光スポットだ。

浜辺に面した白いデッキには、白いテーブルと四つの白い椅子がセットになって幾つも並んでいる。
テーブルの真ん中には、大きな布地の日傘がたたまれた状態で紺色と濃緑色とを交互に違えて立てられている。
それが、ちょっと地中海を想わせる雰囲気があった。

歩いているといつも視界には、220度程の拡がりで日本海がある。
そして見る位置や角度によって、海面の色合いが変化して飽きることがない。
この辺りの民家は、雪よりも海からの風に重点を置いた造りになっている。
宅地を木柵でめぐらし、屋根は黒々とした瓦屋根だ。
遠くからそんな集落を眺めると、黒屋根の集合が日本海に良く似合って美しい。

今日の由利本荘市の宿は、電話帳からたまたま見つけて予約したものだ。
それが着いてびっくりの立派なホテルである。
市街地で一番高い建物で、しかも私の部屋は最上階の8階だった。
部屋の窓から市街地が見渡せて、夕陽と共に刻々と変化するその眺めにしばし時を忘れる。
フト気がつくと、遠くで祭り太鼓の音がする。
夕食も兼ねて外出し、その音を追ってみる。
ようやく見つけると、Gパンに紺の法被を着た男性6人が、紅色の台車を引いている。
台車には、黒い神輿に日本酒壜それに大太鼓と小太鼓を載せている。
どうやら、祭りの始まりを知らせる太鼓をたたいて町内を回っている様子だ。

空腹に気づいて辺りを見渡すと、ぼんやり赤ちょうちんが見えた。
近くに行くと、ラーメン店兼居酒屋風の店で入ってみることに。
暖簾をくぐると、カウンターの向こうにいた店のご主人と奥さんらしい二人は、ちょっと驚いた様子。
でもすぐに、カウンター席をすすめてくれる。
その感じが良く、席について生ビールに枝豆、それにラーメンとおにぎりを注文する。
ご夫婦も、わたしの旅話を肴に調子を合わせてくれて、楽しいひとときになった。