宿を出て歩き始めると身体が軽い。
昨夜、風呂に入溶剤を入れたのが効いたようだ。
今日はいよいよ徳島市の中心市街地まで。
香川県高松市から「徳島まで○○km」の道路標識に導かれて反時計方向に廻って来た。
標識の何百kmという数字に、ため息が出る時もあった。
その徳島に、今日、到達する。
道も国道55号の一本道、自然と足取りも速まるようだ。
ホテルを出て30分程歩くと、富岡西高校前になる。
敷地の塀に「祝 富岡西高校創立110周年」の看板が。
創立が110年前といえば明治の中頃になる。
看板には「伝統と新風」の文字が誇らしげだ。
ここから、どんな俊英達が巣立って行っただろうか。
富岡西高校のすぐ先で桑野川を渡る。
さらに行って、那賀川の大河を渡り、赤石トンネルも抜ける。
トンネルの先で平地になり、左手の山の中腹に巨大な騎馬像が見えた。
思わず「え!」と云うもので、よく見ると大弓を手に掲げた兜武者で、辺りに何本もの白旗がなびく。
もしかしたら、うっすらと記憶にある源義経かも。
たしか、義経は嵐の海を渡って四国に上陸し、意表を突かれた平家を慌てさせた。
JR徳島駅に着いて、観光案内所で「徳島県観光ガイドマップ」をもらう。
それによると、やはり騎馬像は義経で、この地に上陸し白旗をたてたという。
観光案内所では、徳島市街地のガイドマップももらい、今日の宿の位置を教えてもらう。
JR徳島駅から真っすぐ南西にのびる大通りを行く。
新町川を渡って右側の市街地の中に今日のホテルがあった。
夕食も朝食もつかない素泊まりのホテルだと云う。
しかし、近くには食事処もコンビニもあり問題はなさそう。
部屋はツインルームで広めなのは良かった。
なのに、部屋の机の上の小型冷蔵庫には困った。
これでは、読み書きができないし、上の壁かけに掛けた衣類にとっても冷蔵庫は邪魔だ。
ホテルの造りが、時代の流れに追いついて行かない、と云うことか。
「こういうホテルも、たまにはあってもいいか」、これもご縁とお遍路気分の旅人は思うことに。
夕方、近くのコンビニへ行って、夕食用に唐揚弁当、海藻サラダ、缶ビールを買う。
さらに朝食用にと、ミックスサンド、牛乳も添える。
ホテルの部屋で、プロ野球日本シリーズ、中日対日本ハム戦のテレビ中継を観ながら夕食をとる。
次の日は、鳴門市まで15kmの短い旅。
朝、急に思い立って、徳島市のシンボル「眉山」へ行ってみることに。
昨日歩いて来た駅前大通りの先端に「あわおどり会館」がある。
会館の5階が、眉山ロープウエイ乗り場だった。
始発は9時からと云うので、近くの喫茶店でコーヒー(400円)を飲みながら待つ。
朝一番のロープウエイで山頂展望台に立つ。
ややモヤがかかっているけど素晴らしい眺めだ。
徳島市街地、吉野川、鳴門市街地、大鳴門橋さらに淡路島まで遠望できる。
一緒に登って来た埼玉県春日部の中年ご夫婦に、記念の写真を撮ってもらう。
眉山展望台で小一時間程写真を撮ったりして、再びロープウエイで降りる。
駅前大通りから国道11号に出て、吉野川の手前で足が止まる。
赤茶の土と緑の芝生が鮮やかな野球グランドに惹きつけられた。
その広々としたグランドには、ぽつんとバックネット、ベンチ、仮設トイレがあるだけ。
カメラを向けると、フレームの中でグランドを見つめる三つのベンチが何かを語るよう。
四国随一の大河吉野川の河口にかかる長い長い吉野川大橋を渡る。
しばらく行くと、大きな客船が見える。
アメリカのミシシッピー川を行く船の形だ。
川も海もないのに変に思って近ずくと、それは船の形をした建築物だ。
四国の人は、他人を驚かすのが好きなんだ、と写真に収める。
そこからさらに少し行くと、「釜あげうどん」の看板を掲げる店に出会う。
その看板は、建物の上半分を占める大きさだ。
まだ昼少し前だけど、その迫力に吸い寄せられて店に入る。
カツ丼・うどんセットを注文し、鳴門市観光ガイドマップを見ていると、「大塚国際美術館」の文字が。
この美術館は世界初の陶板名画美術館で、何年か前に開館した時は大きな評判をよんだ。
いつか行ってみたいと思いながら、四国の遠い地にあって今だかなわないまま。
急いで宿に着き荷物を預け、美術館へ行ってみようと思い立つ。
鳴門市域に入って最初の交差点で、国道11号から右へ地方道に進む。
国道28号に出会い、その交差点を左に鳴門市中心市街地に向かう。
今日の宿は、鳴門市役所前を過ぎてすぐの交差点近くにあった。
その旅館前に立ったのは、もう14時過ぎていた。
玄関で声をかけても、電話しても誰も出ない。
しばらく待っても同じで、玄関に荷物を置いて美術館へ行くことに。
さいわい近くのバス停から「大塚国際美術館行き」のバスがあった。
鳴門海峡近くの美術館に15時頃着き、旅館に電話するとご主人が出た。
事情を話し、玄関の荷物を部屋に入れてもらう。
大塚国際美術館は、古代壁画から世界25ヶ国190余りの美術館が所蔵する現代絵画まで、1000余点の陶板名画を持つ。
陶板の特殊技術で、オリジナル作品と同じ大きさで忠実に再現しているそうだ。
作品だけでなく、作品のある環境空間までもそっくり再現し臨場感ある立体展示になっている。
山の裾野にある入口は地下3階で、地上2階まである館内は壮大だ。
閉館は17時と云うので、急いで見て廻る。
西洋美術史の変遷が分かる系統展示順に観て廻る。
陶板なので、そっと触る程度は許されるそうで、モナリザの唇に指で触れてみたりする。
そんなことで、あっという間に時間が過ぎる。
印象派の画家やミレ―、ムンク等の近代絵画のところで時間切れとなる。
ピカソ、ミロ、ダリ等の現代画家の作品は観られず残念。
それでも、入館料3150円以上の満足感が残った。