日本一周てくてく紀行

No.159 四国 編(土佐市高岡町~香南市夜須町)

今朝も出発の時、宿の女将さんの不思議な体験話が止まらなかった。
それで、宿を出るのが30分程遅れる。
女将さんは、この近くに子宝祈願に大変ご利益のある「長池地蔵」があると云う。
女将さんの熱心な話しぶりに誘われて、そこへ寄ってみることに。
そう云って、ようやく女将さんに見送られ出発する。

長池地蔵は、細い水路沿いにある小さな祠だった。
周辺は掃き清められ、地元の人が大切にしていることがよく分かる。
自分の娘達に元気な子が授かるようにと手を合わせる。

子宝祈願をして、旧中村街道に出るとそこに喫茶店があった。
素泊まりの宿だったので、店に入ってモーニングセット(400円)をオーダーする。
パンとコーヒーそれに玉子焼きのセットに、サービスですと味噌汁とお茶が出た。

旧中村街道から国道56号に出て、しばらく行くと仁淀川の長い橋を渡る。

今日は南国土佐の中心、高知市の市街地まで約16kmの短い旅。
天気は晴れて昨日より気温が高いのか、汗をかき疲れやすい感じ。
仁淀川の先から山道になり、トンネルを抜けると沿道が賑やかになる。
ここも今、全国的に見られる新市街地の沿道風景だ。
様々な業種の店がならび、昼時になって食事処に入る。
メニューから親子丼・かけそばセット(900円)を選ぶ。
昼食後ほどなく鏡川に架かる「月の瀬橋」を渡り、高知の中心市街地に入る。
東西方向にのびる大通りに出ると、路面電車が走っていた。
東に向かって行くと、歩道に「坂本龍馬誕生地」と書いた案内標識と石碑が建っている。
北側の小高い山の上にはお城が見えた。
予約したホテルに電話して道順を教わる。
教わった通り、大丸デパート横のアーケード商店街を抜けて、ホテルには14時過ぎに到着。

ホテルは、ちょっと高級感のあるシャレたシティホテル。
フロントへ行くと、そこは本館で私のは西館の方と云う。
道路を挟んで反対側にあるそちらは、どうやらビジネス客用らしい。
コインランドリーがないので、洗濯は浴槽の湯洗いで済ます。

部屋でひと休みして、街中に出る。
まずJR土讃線高知駅へ行き、そこから路面電車が走る大通りをゆっくり歩いて南下する。
路面電車が走る街は、ゆったりした雰囲気だ。

昭和の時代に、ペギー葉山さんが歌って大ヒットした「南国土佐を後にして」が頭に浮かぶ。
あかるく、おおらかで、ユーモアあるこの歌は、ずーとわたしの土佐イメージになった。
司馬遼太郎が描く「坂本龍馬像」も、このイメージを壊すことはなかった。
この歌に出てくる「ハリマヤ橋」は、橋の名前としか思い浮かばなかった。
来てみると、「はりまや橋」は小さな赤い丸木橋でしかない。
「ハリマヤ橋」は、むしろこの辺りの繁華街の地名だったのだ。
暗くなって、「はりまや橋」の上で、お遍路姿の若者がお椀を前に置き、座って竹笛を吹いている。
その姿は、わたしのお遍路像と「ハリヤマ橋」のイメージとは似合わしくない。
どこかで夕食を兼ねてイッパイの気分が、なんだか面倒くさくなった。
コンビニで弁当、焼き鳥、缶ビールを買って、ホテルの部屋で夕食をとる。

次の日、ホテルの朝食は、和洋式のバイキングでおいしかった。
ホテルを出て、昨夜と同じ駅前の大通りを南下する。
朝8時台のまちは、街灯がともる夕闇のゆったりした雰囲気はない。
広い歩道を、通勤・通学の自転車とすれ違いながら進む。
路面電車のはりまや橋駅付近は、懐かしい感じがしてカメラを向ける。
シャッターを切った時、指先に長崎のまちでの同じ感触がよみがえった。

まだまだ歩いていると汗をかく。
それでも、大分涼しくなって身体は楽になってきた。
水分補給もペットボトル1本位で済むようになる。
道は、JR高知駅前を始点にする国道32号を行く。
その道も南国市の手前で二手に分かれる。
一方は山側に向かう国道32号で、他方は海側を進む国道55号となる。
その国道55号を行き、南国市から野市町(現香南市)に入ったところで昼時になる。
ちょうどレストランが見つかり入ると満席だった。
少し待ったところで席が空き、日替わりランチ(787円)をオーダーする。
ピリ辛の唐揚とエビフライ、サラダ、スープそれにコーヒー付きだった。

食事に満足した気分でレストランを出て、しばらく行くと金ぴかの建物が目に入る。
ナント、京都にある金閣寺のようだ。
四国の沿道は、時々、こうした思いがけない光景が眼を楽しませてくれる。

夜須町(現香南市)に入ると、道の駅「やす」があった。
中には3人のお遍路がいて、2人は仲間なのか話をしている。
わたしが休憩を終えて腰をあげても、二人はゆっくりタバコを吸っていた。

今日の宿は、ここ夜須町にある国民宿舎。
道の駅から、前方の山の上にあるその国民宿舎が見える。
気持ちははやるけど、なかなかその宿にはたどり着けない。
どうやら裏道だったようで、その山道を登るのに30分程かかった。
国民宿舎の横の斜面には、赤、ピンク、しろのコスモスがびっしり咲き誇っていた。

この宿からの眺めは素晴らしい。
前方は太平洋の海原が、横方向は漁港が、斜め後方は夜須のまちが見渡せる。
大浴場で汗を流し、備え付けのマッサージ機で身体をほぐす。

夕食の時、一時、土佐の酒「司牡丹」が好きだったことがよみがえる。
生ビールの後、その「司牡丹」を頼んでみる。
その銘柄はなく、代わりに出された「土佐鶴」と云う酒が旨かった。
辛口の酒に酔いしれた時、酒好きだったオヤジを思い出す。
そのオヤジには、何もしてやれなかった、とほろ苦く想う。