日本一周てくてく紀行

No.41 北の大地編①(新冠町~浦河町)

子供の頃、地図を眺めながらあれこれ空想することが好きだった。
北海道の地図では、長万部(オシャマンベ)、新冠(ニイカップ)、音威子府(オトイネップ)の地名に眼を引き寄せられた。
いかにもアイヌの言葉から生まれたような地名に、どんな所かと空想に駆られたものだ。
その新冠町にやってきたのに、ゆっくりする間もなく町を後にすることになった。
次の三石町(現新ひだか町)の宿は、浦河町境に近いケリ舞と云うところでしか予約がとれなかった。
それで今日の旅は、35km程のロングな旅になる。
昨夜、布団の中で足の筋肉を手でもみほぐしたら、腰までずいぶん楽になった。
明日の長距離になる旅を思い、一生懸命それを繰り返した。

今朝は幸い好天気となり、いつもより少し早い8時に出発した。

新冠の中心市街地を発って1時間ほど歩くと、沿道が賑やかになった。
静内町(現新ひだか町)の中心市街地に入ったのだ。
左記の写真のように、いまや全国どこでも見られる沿道風景だ。
全国展開する様々な店がまとまってあることは、消費者にとっては便利でありがたいことである。
しかしこれによって、旧商店街が寂れて行くことになる。
それは、やがて地域の伝統や歴史的なモノが失われていくことにもなる。

そんなことを考えながら市街地を抜けると、ふたたびJR日高本線に沿う道になった。
そしてきれいに色彩られて積み木細工のような東静内駅前を過ぎる。
そこからは先は日高本線から離れて、太平洋の浜辺に沿った道がどこまでも続いた。
この道では食事処などは無いかもと諦めかけた時に、黄色いそれらしい建物が遠くに見えた。
大きめのドライブインで、中には結構客が入っていた。
北海道らしい海のぐがイッパイの「磯ラーメン」が美味しかった。

昼食に満足し、晴れた空の下、気分良く歩き始める。
やがて鉄道にまた近づくと、JR春立駅があった。
そこを過ぎると、クレーン車で大きな魚網を修理する風景に出合った。
魚網の巨大さに度肝を抜かれる。
こんな大きな網を海に沈めて、魚を獲るのかと実感させられ驚く。

魚網の巨大さに腰を抜かしたわけでもないが、疲れが出てきて足が重くなる。
それで、時々浜辺におりて休憩する回数が多くなった。
昨夜の念入りなマッサージが効いているのか、足や腰の痛みが出ないのは幸いだ。
それに、この広大な空と海を眺めているとジワジワと元気が出てくる。

こうして、宿に着いたのは、夕方6時だった。
これ以上遅くなると暗くなり心細く不安になる。
やはり、一日35kmの行程が歩く限度だと思った。

今日の宿「はまなす荘」は、温泉施設がある三石町老人福祉センターと一緒の宿泊施設だった。
宿に着いて、まっ先に温泉に浸かった。
湯の中は、地元の人らしい人でイッパイだった。
温泉施設にはマッサージ機もあり、湯から出た後にそれで全身をもみほぐした。

さらに、寝る前にもう一度温泉に入ろうかと思ったけれど、眠くて10時に寝てしまった。

次の日の朝、目覚めて部屋の窓から外を眺めると、素晴らしい天気と風景だ。
身体が少し重かったので、安心して少し寝坊した。
今日は、16kmと短い旅なので出発も少し遅くした。

北海道では、続けて晴天になるのは珍しい。
宿を発って1時間も経たないうちに、高台の道から低地に下る辺りから市街地になった。
浦河町の萩伏という集落で郵便局もあった。
この郵便局で旅費の補充をする。
ここの街灯のデザインに、馬が組み込まれていた。
後で分かったことだが、浦河町は日本一のサラブレッド産地だそうだ。
牧場の数は300にもなるといわれる。

萩伏の市街地が切れると、美しい牧場地が続く。
広々としたみどりの牧草の中で、美しい馬体のサラブレッドがゆったりと草を食んでいる。
こうした環境で鍛え抜かれた馬の中で、さらに選び抜かれた一握りの馬だけが、競走馬として日本一の栄冠を勝ち取るのだ。
美しい風景と裏腹に、馬側からみれば厳しい生涯なのかもしれない。

やがて海岸まで山の急斜面が迫る道になった。
人はもちろん車もほとんど通らなく、自分の靴音だけが響く道になった。
すぐ横の太平洋は薄いブルーに輝き、水平線は180度の拡がりを見せる。
余りにも気分がよいので、海に向かって思いっきり大声で叫んでみた。
すると誰もいないと思った反対側の山の斜面から、何人かの驚いた顔が出てきた。
土砂崩れの防止作業をしていた人達だった。
驚いたのは私も同じだ。
急いでその場を離れたのは云うまでもない。

そうそう、この地は「日高昆布」の産地で有名だ。
井寒台(イラップダイ)という集落前の海で、昆布を獲る女性を見た。
荒い波に打ち上げられる昆布を、海に入って竿でたぐり寄せて獲るのだ。
観ていても大変そうだ。 しかし、女性のたくましさに魅入られて何枚か写真を撮った。

浜辺にいっぱいの昆布が干されているのを眺めながら、浦河町の中心市街地に入って驚いた。
予想外の大きな町だ。
しかも、街並みがきれいでシャレていた。
伊達市でもそうだったけれど、北海道は美しい街並みづくりに関心が高いまちが多いようだ。

こうして、のんびり歩いても、浦河町東町の宿には14時半頃に着いた。