この日、網走地方は気温25℃で今年はじめて夏日になった。
宿でおにぎり弁当を用意してもらって出発する。
昨日と同じオホーツクサイクリングロードを能取湖に沿って歩く。
木立の間を通る道で日陰が多く、暑さがしのげて随分助かった。
しかし、たまに自転車に乗る人を見かけるぐらいで人気がなく何か物足りない。
国道238号線のPAに着いた時は、ホッとする。
木陰にベンチがあって、休息と食事をするのに丁度よさそうだ。
昼食にはだいぶ早いが、ここでおにぎり弁当をひろげることにする。
おにぎりは、梅干しとオカカだけの簡単なものだけれどおいしかった。
食事をし終わる頃に、子供たちが大勢やってきた。
遠足なのか、みんな楽しそうで賑やかだ。
カメラを構えると、すかさずポーズを撮ってくれた。
この日良かったのはこの時までで、この先の能取湖からサロマ湖に至る道は大変だった。
日射しを和らげてくれる木立ちもない単調な道が続き、暑さでバテぎみになる。
ようやく常呂PAに着いて、木陰のなかに転がり込む。
ここは高台で崖下には、オホーツクの海に沿う常呂のまちが見渡せる。
この先のサイクリングロードは、国道の歩道と兼ねた道になった。
そして、左の山側に高い変な形のタワーが見える。
それに登れば、さぞ良い眺めが得られるだろうと思ったが、寄り道する元気が出なかった。
後で調べてみたら、このタワーは、常呂町開拓百年を記念して昭和58年に建てられた展望塔だ。
未来に羽ばたく鳥をイメージしたデザインだが、ホタテ貝にも似ているので、通称「ほたてタワー」とも呼ばれるそうだ。
「ところ森林公園」内にあって、高さ100mで階段も100段あるという。
国道を下って常呂川を渡ると、交差点の角にコンビニがあった。
ここで休んで出発しようとしたら、わたしがきた道を荷物をイッパイ背負って歩いてくる人が見えた。
はじめて歩く旅人に出会えて、思わず話しかける。
わたしが銚子から歩いて旅をしていると話したら、「あなただったのか」という。
森町と鵡川町の宿でわたしのことを聞いたそうだ。
鵡川町には、わたしが出発した1日遅れで着いたとのこと。
横浜市の田崎さんと云って、わたしと同じ年頃だ。
函館からやはり歩いて北海道一周する旅を続けているそうだ。
ただわたしと違って、宿がとれない時に備えて野宿の用意もしているとのこと。
そして、野宿をしてハチに刺され、網走の病院に2日通ったといわれた。
今日の宿は、田崎さんは佐呂間町浜佐呂間で、わたしは常呂町栄浦とこの先で道が分かれる。
それで、互いに写真を撮り合い、励まし合って別れた。
栄浦の民宿は、サロマ湖の北東端の岸辺に近い「ところ遺跡の森」の近くにあった。
宿から湖は見えないけれど、「湖畔の宿」の名前に魅かれたのか女性宿泊客が多い。
夕食は、タラバガニ半杯、煮かれい1匹、ほたて等とオホーツクの海の幸でいっぱいだった。
次の日の朝は、ぐっすり眠れて元気な目覚めになった。
昨日の疲れが残らないか心配だったので、まずはひと安心だ。
今日の旅は、20km弱のショート旅行なので気分的にも楽だ。
ところが、その気の緩みと暑さですぐにバテ気味になってきた。
そんな様子が伝わるのか、道行く車から「ガンバレよ!」と声をかけてくれる人もいる。
日陰で休むところが見つからず困った。
ようやく昼過ぎごろに、「サロマ湖畔遊歩道」入口のところで、木立が生い茂るなかに東屋が見えた。
そこで途中のコンビニで買ったアンパンをひとつ食べて休憩をとる。
木立の中は、精神的にも癒されるのか元気になった。
そこから1時間も歩かないうちに、道の駅「サロマ湖」があった。
そこのレストランでカレーライスを食べたら、中はホタテ入りだった。
今日の宿は、サロマ湖のほぼ全景が見渡せるピラオロ展望台そばにあった。
宿に着いてバッグを部屋に置くと、すぐにその展望台へ行く。
ほかにも観光客が数名いて、望遠鏡を覗いている。
サロマ湖は、面積約152平方キロと北海道で一番広い湖である。
日本では、琵琶湖、霞ヶ浦に次ぐ第3位の湖だ。
オホーツク海とは、150から900m程度の狭い砂州で仕切られている。
海水と淡水が混じり合う汽水湖である。
この展望台にある案内板によると、ここはアイヌの人たちが湖の魚群を見張った地だそうだ。
また、この地に残るメノコ哀話の伝説も記されている。
概要は以下の様である。
むかし、十勝アイヌと北見アイヌの争いがおきた。
北見アイヌの若者サンクルも戦場に出かけ、そして帰らぬ身となった。
ピリカメノコのマチカは、ピラオロの台地に立っていつまでも恋人のサンクルを待ち続けた。
そしてとうとう、この台地からサロマ湖に身を投じてしまった。
湖の水はマチカの涙で辛く、在りし日のマチカの姿は、台地に咲く山百合の優しい姿となった。
そんな話を想い浮かべながら広大な湖を眺め、そして写真におさめて宿に帰る。
宿で洗濯機を借りて、今日の汗だくになった衣類を洗濯する。
夕方になりもう一度展望台へ行って、サロマ湖と周りの山の端に落ちる夕陽をながめる。
メノコ哀話の物語が、いっそう哀愁を帯びて浮かんできた。