連泊した次の日、朝食の時、昨夕到着した県職員の人達と一緒になった。
なんとその中に、一昨日、大吹峠口で出会った川添さんがいた。
あの日は、今日の「伊勢路踏破リレーウオーク」の下見をしていたと云う。
これもご縁と云うものか、と驚きあう。
ウオークのスタッフとして慌ただしそうで、、余り話ができないまま別れる。
出発の時、いろいろお世話になった宿のご夫婦にお礼を云って、互いに写真を撮り合う。
今日は昼頃から雨の予報で、女将さんが折りたたみ傘を渡してくれた。
今日の目的地はJR尾鷲駅前で、そのルートは二つある。
ひとつは、国道311号で海岸沿いを行く約30kmの道。
もうひとつは、反対方向に古川の谷筋を上って国道42号に出る約24kmの道。
雨の予報もあって、行程の短い古川の谷筋の道を行く。
谷筋の道は国道42号に出るまで約7kmが、ずーと上り坂だった。
途中、休憩で腰を下ろすと、10分も経たない内に寒くなって腰を上げる。
国道42号の交差点賀田口から先に進むと、長い矢ノ川トンネルに入る。
トンネルを抜けると、今度は矢ノ川の谷筋を下る道になる。
案の定、11時頃から雨が降り出す。
女将さんが渡してくれた折りたたみ傘を、さっそく広げる。
国道311号線との合流地点を過ぎたところに、和食レストランがあった。
ちょうど昼時で入り、メニューからさんま寿司膳(980円)を選ぶ。
かなりハイピッチで歩いたこともあって、JR尾鷲駅前には13時40分に着いた。
尾鷲の街は、私のイメージと違って昭和が色濃く残る。
今日の宿は、街の玄関口でもある駅のすぐ前にあった。
駅の待合室で14時まで待って、そのビジネスホテルに行く。
すぐに案内された部屋は、バス・トイレ付きで普通のまずまずのシングルルーム。
部屋のイスに座って、明日からの行程を考え宿の予約をしたりする。
名刺がなくなったので、妻に電話して道路地図、CDR等の後方支援物資に入れて送ってくれるよう頼む。
今なら明日の紀北町の宿に宅急便で届くと云うので、そうすることに。
それから夕食に出て、駅前に残る食堂店に入る。
店内はテレビの音量がものすごい。
テレビの前で、店の主人らしき人が独り座っている。
ボリュームを下げるように頼むと、「年とると耳が悪くて」と苦笑しながら音を下げる。
店内の壁一面に品書きが貼られ、50cm大の布袋さまの焼き物がデンと壁際に腰を据える。
店内に置かれた鍋やヤカンは、店の歳月を語るがごとく真っ黒。
まさに昭和の時代にタイムスリップしたような雰囲気。
昭和育ちの旅人の胸に、思わず旅情の灯がともる。
休肝日のつもりだったのに、つい熱燗一本と店主に声をかける。
店主は「お銚子は八分しか入らないから、コップでいいかい」と言う。
勿論OKと言うと、コップ酒に冷奴を付けてくれる。
JR尾鷲駅前だというのに、店内はテレビの音しか聞こえない。
この店とこの街は、これからどうなって行くのだろうか。
店で独り、コップ酒をあおり、野菜炒め定食(750円)を食べながら考え込む。
翌朝、目覚めると、何となく身体が変だ。
部屋の空調が埃っぽく、夜中にのどがいがらっぽく咳も出た。
宿を発ってから、だんだんとのどが痛くなり熱っぽい感じになる。
歩く旅で、初めて経験する身体の変調。
あいにく天気も雨で、胸の内で注意信号がなる。
宿から街中を抜け、JR紀勢本線を渡るとすぐに国道42号に出る。
そして道は、くねくねと曲がる山道になる。
長いトンネルをひとつ抜け平地に出ると、道の駅「海山」があった。
まだ午前の早い時間だけど、日曜日で人出が結構ある。
「熊野古道」や「世界遺産」と書いたのぼりが目立つ。
情報コーナーで、大型モニターに映し出される熊野古道の映像を観ながら休憩する。
道の駅で休憩し、JR相賀駅前を過ぎると広い駐車場のある食事処があった。
その駐車場で休んでいると、「熊野古道を歩いているんですか」と声をかけられる。
若い女性一人と男性3人で、紀北町の職員やNPOの人達だと云う。
熊野古道等の観光資源を活かして、紀北町の「まちおこし」を企画するメンバーだそうだ。
わたしの歩く旅に興味を示して、「歩く旅」や「まちおこし」等の話をする。
熊野古道伊勢路が世界遺産登録されたことは、地元への経済波及効果では今のところそれ程でもなさそう。
しかし、地元の人達は大きな自信と誇りを得た様に思う。
ここでも、「熊野古道を歩いているんですか」とよく訊かれる。
伊勢路のこの旅は、国道が一部熊野古道と重なったり、わざわざ古道へ寄り道することもある。
それで、あいまいに「エェ」と答えたりする。
するとみなさんとても嬉しそうな笑顔になり、あれこれ地元の古い話をしてくれる。
半分ホントで半分ウソのわたしの返事は、熊野と伊勢の神さまは許してくれるのでは?
さいわい雨はそれ程強くならず、歩道も比較的良く整備されていて歩きやすい。
幾つもあるトンネルも、歩行者専用トンネルがあったりして助かる。
紀伊長島町(現紀北町)に入って海岸の所で昼時になった。
ちょうど食事処があり、これ幸いとばかりに入る。
珍しく食欲が少し落ち、ラーメン+ライス(577円)にする。
今日の宿は民宿で、近くに鉄道駅の様な明確な目標物がない。
それに雨の中、この体調で、すぐに見つかるか心配だった。
昼食後も二つのトンネルを抜け、古里海岸と云う所に出る。
ここは海水浴場で、民宿はこの辺りだと云う。
海辺に沿って行くと、交差点の所にその民宿が見つかりホッとする。
宿に着いたのは14時半頃。
夕食は早めの午後5時頃にしてもらう。
料理民宿だけあって素晴らしい料理が並ぶのに、イマイチ食欲がわかない。
事情を話して少し残すと、ご主人は残念そう。
入浴剤入りの風呂に入って早々に寝る。
夜中に、まさにバケツをひっくり返したような雨音で目が覚める。
こんな大雨は、歩いているときでなく良かった、と思いながらまた眠りに落ちる。