日本一周てくてく紀行

No.115 九州 編(福岡県北九州市小倉北区~福津市津屋崎)

小倉の朝は雨。
天気予報では、一日雨だと云う。
今日の旅は、遠賀郡芦屋町まで30kmの行程。
無理しないで小倉の宿に連泊して休養日にしようと思った。
四日前に予約した今日の宿、国民宿舎に一日延期の電話を入れた。
すると、明日は修学旅行の予約があって満室だと云う。
この宿へ後方支援物資を送る手配を、妻にしてある。
ここは頑張るしかない、と出発することに。

雨の日は、意外と身体の方は楽だ。
風も強くないので、元気に歩く。
約2時間ほどで若戸大橋が見えてくる。
近ずくと急に道路幅員が広い交差点になった。
その先はちょっと複雑な道路になっている様で、どうも若戸大橋へ歩行者は行けないようだ。
小倉の宿の女将さんは、歩行者も通れると云っていたけど。
道路脇のバス停にいた女性に尋ねると、以前は通れたけど今はダメになったと云う。
でも橋のたもとから、船で渡れると教えてくれた。
その渡船場には、何度も人に尋ねてたどり着く。
大人片道100円、3分で河の様な細長い洞海湾を渡る。

船で戸畑区から若松区側に渡ると、洞海湾沿いはシャレたプロムナードになっている。
湾の両岸にビルが建ち並び、ちょっとヨーロッパの港町のようだ。
プロムナードを歩いて行くと、ひときわ目立つ建物があった。
煉瓦造二階建ての大正ロマン漂う美しいビルだ。
この時は雨が降っており、写真に収めるだけで先を急いだ。
後で調べると、旧古河鉱業若松ビルといって、現在はコミュニテイホールとして活用されている。

北九州の戸畑・若松区は鉄鋼のまち。
鉄鋼不況と云われてきたが、結構、活況を取り戻しているようだ。
でも、臨海部を行く国道495号は単調な道になり、雨の中、トボトボと歩く。
昼時になっても食事処は見つからず、やっと見つけたコンビニに入る。
ここで、アンパンと牛乳そしてダテ巻寿司とお茶を2回に分けて食べる。
それでも、後半はお腹がすくのと疲れで歩みが遅くなる。
さびしい山間のところで、今日の宿の案内看板が見えた時は、心底ホッとする。
そこから山の上に建つ宿への道は、気ばかり急いで長かった。
上りつめて、宿の前に立った時は驚いた。
国民宿舎だけれど、想像以上に大きくモダンな建物だ。
濡れた雨装束で、到着客がたむろするロビーに入って行くのは、ちょっと気が引けた。
そんな旅人を、ここの国民宿舎も温かく迎えてくれる。
案内された部屋からの眺めは、声をあげたくなるほど。
遠賀川河口の芦屋港と響灘が、幻想的な姿で眼ん玉イッパイに飛び込んできた。

自宅から妻が送ってくれた後方支援物資も無事に届いていた。

次の朝はくもり。
今日も30kmを超えるロングな旅になる。
それなのに、自宅におくる宅急便の手配などで出発が遅れてしまった。
山を下り遠賀川を渡って、芦屋町の市街地を縦断する。
遠賀川河口の芦屋のまちは、古来より「筑前国の岡湊」として栄えたと云う。
現在も航空自衛隊基地や競艇場もあって、まちに活気がある。

そんな芦屋の市街地を抜けると、山間の道になった。
単調な道に飽きた頃、ひときわ目立つ民家が。
入母屋破風を三つも重ねた農家住宅だ。
この農家住宅で思い出した。
つくば万博前の昭和の終り頃、筑波研究学園都市に中国の視察団が訪れた。
鉄筋コンクリート造りの国家公務員住宅ビルを視察した後、遠くの建物を指さし尋ねた。
「あの立派な建物は何か」と。
案内者が「農家住宅」と答えると、「日本の農家は解放されている」と驚いたという。
国家エリートの住宅より、農家の住宅の方がよほど立派に見えたに違いない。
そんな話を思い出し、GNP世界第2位の経済大国日本の豊かさを考える。

やっと見つかった食事処は休業中だったりで、昼食がとれないまま歩き続ける。
国道495号芦田交差点を過ぎて平山口と云う所で、急な登り道になる。
手前でひと休みしようと辺りを見廻す。
脇の小道が舗装されていて、そこにシートを敷いて腰を下ろす。
非常食のカロリーメイト2個を取り出し食べる。
それで元気を取り戻し峠を越える。
瀬戸交差点のところでコンビニがあって、やっとおにぎり2個にありつく。
すでに午後2時を過ぎていた。

国道495号は宗像市、福津市へと進み、神湊交差点と練原交差点のところにもコンビニがあった。
そこで飲み物やヨーグルトを買い、店前で休憩する。
そして、国道が海辺に出た交差点のところに、今日の宿があった。
「スターリゾートセンター」と書いた三階建ての建物だ。
部屋に案内されて、窓から覗くと、前は美しい砂浜海岸。
なるほど、夏場は海水浴客で賑わうリゾート地なのだ。
部屋はバス・トイレ付だけれど、共用浴場もありそちらに一番に入る。

夜、昨日届いた後方支援物資に妻が差し入れてくれたドリップコーヒーを淹れる。
コーヒーを飲み波音を聞きながら、旅便りのメールを送る。