日本一周てくてく紀行

No.156 四国 編(愛南町御荘平城~高知県四万十市中村)

昨夜は寝つきも悪く、何度も目が覚めた。
そのせいか、昨日はあんなに快調だった足取りが、今日は少し重い。
素泊まりの宿なので早めに出て、すぐ近くの第40番霊場観自在寺に寄ってみる。
「別格本山 観自在寺」の石柱を横に見て石段を上がる。
そこには大きくはないけど風格のある山門が構える。
別格本山を名乗るだけの雰囲気がある。
早くもひとりのおばさん遍路がやって来る。

はやく朝食がとれるところを探そうと、早々にそこを発つ。
国道56号に出てすぐにコンビニがあった。
サンドウイッチ、アンパンと牛乳を買って朝食にする。

うろこ雲の秋空だったが、日射しを浴びて歩くと汗をかく。
そして日陰で休むと、身体が冷えるいつものパターン。
それを繰り返すうちに、お腹の変調を覚える。
これは何度も経験したいやな予兆だ。
急いで辺りをめぐらすと、道路脇に土砂防止のコンクリート壁が眼に入る。
その裏側が格好の青空トイレに。

宿毛街道と呼ばれる国道56号の沿道には、ときどきビックリする豪壮な民家があらわれる。
その共通した特徴は、いぶし銀の瓦屋根と黄土色の破風板だ。
いぶし銀と黄土色の組み合わせが、落ち着いた風格をかもしだす。
こうした、その土地で長年にわたって育まれてきた美意識は、大切にしたいもの。

道は山道続きで、昼時になっても食事処が見つからない。
高知県に入って、宿毛市の新市街地の入口あたりまで来て、ようやく見つかる。
それは、あのファミレス「ジョイフル」だった。
午後2時も過ぎていて、メニューのランチからチキンペッパーステーキ(399円)を選ぶ。
ホッとして、ドリンクサービスのオレンジジュースを2杯飲んだのがいけなかった。
またもやお腹が張って、トイレに駆け込む破目に。

とんだハプニングがあった一方、今日もいろんなお遍路さんと出会う。
わたしは四国を反時計回りに歩いている。
これは、お遍路さんが廻る方向と反対のようだ。
それで、いろんなお遍路とすれ違う。
今日は夫婦遍路とよくすれ違った。

宿毛の宿は、お遍路もよく泊る旅館だった。
夕食で青年遍路と隣り合わせになる。
彼の方から話しかけてくれ、名古屋に住む31歳だという。
会社を辞めて心機一転、お遍路の旅を続けているそうだ。
お遍路をしていると、いろいろと今までの自分に反省することが多い。
そんな話を素直に語ってくれる。
自分もこの年頃に一度だけ転職を考えたことを思い出す。
食事を終えた後も、互いにもっと話したい気分だった。
ところが、旅館の坊やが彼になついて離れないので諦める。

次の朝、昨夜の青年遍路が旅立つところを撮らせてもらう。
すげ笠からのぞく顔にピントを合わせる。
坊主頭で丸顔の笑顔は、やさしいお地蔵さんのよう。
いろんな悩みがふっ切れた様な涼しげな眼だ。
彼から名刺代わりに住所氏名を書いた納札をもらう。
遍路の体験を糧に、この先の彼の人生を、力強く切り開いて行ってほしい。
そんな気持ちで、いつまでも彼の後姿を見送る。

昨夜も3度ばかり眼が覚めた。
もう少し熟睡できるとよいのだが。
そんなことを考えながら歩き始めたが、まずまず快調に進む。

宿毛市から、国道56号は、土佐くろしお鉄道宿毛線と、時々、絡み合いながらゆく。
中筋川が流れる谷間の道だけど、鉄道はトンネルや高架構造になることが多い。
まだまだ日射しの下で歩くと、汗をかいて疲れる。
休憩は間隔を50分、休み時間20分といつもより早めに長くとる。
四万十市に入って荒川と云うところで昼時になる。
折よく、レストランが見つかり入る。
釜めしセット(800円)を注文すると、4品に味噌汁、お新香が付くボリュームたっぷり。
食後にコーヒー(200円)を追加して、1時間近い昼食休憩をとる。

くろしお鉄道具同駅近くで国道56号を離れ、旧中村市(現四万十市)の中心市街地に向かう。
やがて清流四万十川を渡る。
「四万十川」、懐かしい川だ。

35年前の新婚旅行で、宇和島からバスで宿毛を経由して足摺岬についた。
道はまだ未舗装のところも多く、くねくねした道で、妻はバス酔いがひどかったと云う。
岬近くの国民宿舎に泊り、翌日、四国最南端足摺岬へ。
雪がチラホラ舞っていたけど、やがて太陽が昇り青い海が銀色に輝く。
そんな展望を楽しんでバス停につくと、バスは出た後。
なんと時刻表が、10分早く改訂されていた。
仕方なくタクシーで中村まで行く破目に。
妻の表現で云うと、山から村へ、村から山への連続だったそうだ。
そうしてたどり着いた四万十川でのことが、ぼんやり記憶に残る。
タクシーの運転手に勧められるまま、車から降りて土手に立つ二人を撮ってもらった。

今日の宿は、四万十大橋を渡ったタモトにあった。
古くからある料理旅館の様で、四万十川が見渡せる部屋に案内される。
暮れなずむ四万十川を眺めながら、新婚旅行で残るかすかな記憶を想い浮かべる。