日本一周てくてく紀行

No.145 山陽 編①(竹原市田ノ浦~三原市城町)

第3次日本一周徒歩の旅は、広島県竹原市で終えることになった。
真夏の暑さで熱中症の危険にさらされたからだ。
その暑さを避けるには、10月になってからの再開が望ましかった。
日本一周徒歩の旅は、戦後60年目の2005年を挟む3年の間に達成することに、こだわりがあった。
それで、3年目の今年2006年末のクリスマス頃には、ゴールしたいと思った。
そう考えて日程から逆算すると、9月中旬には再スタートする必要があった。

暑い夏を自宅で過ごしながら、次の旅の準備を整える。
敬老の日の今日、実家の名古屋で92歳になる母を見舞う。
それから、鉄道を乗り継ぎ竹原に到着。
JR呉線の竹原駅を出ると、2か月前と同じまちが出迎えてくれた。
心配した台風13号は日本海に抜けた。
そして今日は、2か月前の竹原の暑さがウソの様に涼しい。

今回の宿は、前回の駅前のホテルではなく、別の旅館にした。
前回の旅を終えた日に、磯宮八幡神社の祭を見に行った。
その途中に、「日本橋旅館」の看板を付けた建物があった。
川沿いの古い町屋の建物だった。
近くの本川に架かる橋の名も「日本橋」となっている。
もしかしたら、かつてこの辺りは船着き場だったのではないか。
そしてここは水運を通じて、お江戸日本橋とつながりがあったのかもしれない。
そんなことを想像し縁起を担いで、第4次の最初の宿をここに決めた。

その旅館に着いた時は、まだ16時前。
部屋に荷物を置いて、直ぐに散歩に出かける。
足は自然と前回も行った「まちなみ保存地区」に向かう。
あの時は暑く気持ちに余裕もなく、しっかり見られなかった。
今日は涼しく、観光客もチラホラ程度で、落ち着いた気分で街中を歩く。
この日も、紙垂らしを付けた麻縄が民家の軒下に連なっている。
秋祭りなのか、旅の始めが祭りの日と云うのも、ちょっとうれしい気分に。

まちなみ保存地区の中ほどに西方寺というのがある。
高台の石垣の上にあって、前回は暑さで参道の石段を上がる気にならなかった。
今回は上がってみると、すばらしい眺めだ。
石段を上って振り返ると、参道を挟む黒い瓦屋根のつながりが美しい。
さらに奥に進むと、木造十一面観音菩薩立像(県重文)がまつられている普明閣と云うのがある。
それは、京都の清水寺の舞台を模して建てられたという。
その舞台からは、竹原の市街地が見下ろせる。
黒い瓦屋根が海原の様に広がる眺めは、見飽きることがなかった。

この後、いったん旅館に戻って風呂に入り汗を流す。
それから、前回の旅でも入った中華店へ行き夕食をとる。
前と同じニラレバ定食にし、この日は休肝日にする。

次の日も晴れて、さわやかな旅立ちの朝になる。
宿の朝食は、ハムの入った目玉焼き、海苔そして味噌汁にご飯だ。
シンプルだけどおいしかった。
女将さんは明るい人で、気配りもあって心休まる宿だった。
第4次日本一周徒歩の旅は、お陰で気分良く第一歩を踏み出す。

宿の前を通る国道185号を行くと、すぐにあの磯宮八幡神社の前になる。
参道をのぞくと、紙垂らしを付けた縄に「献燈」と書いた白い提灯もぶら下がっている。
やはり今日も、秋祭りの日なのだ。
国道185号は、JR呉線を渡ると、海沿いの道になる。
さらに進むと、再びJR呉線に出会い、それからは並行する。
旅を始めたばかりで疲れが無いせいか、あちこちカメラを向けてシャターを切る。

忠海高等学校の手前で、展望台のある休憩施設「エデンの海」というのがあった。
そこから眺める瀬戸の海は、キラキラ輝いて美しい。
近くの案内板によると、戦後間もなく、忠海高等学校の教師(若杉 慧)が書いた「エデンの海」と云う青春小説が大ヒットしたという。
そして3度も映画化されたそうだ。
後で調べると、その内の1本は山口百恵が主演している。
のどかで明るい美しい海を見ていると、そんな青春物語が生れるのも分かる気がする。
休憩して歩き出すと、忠海高校のグランドが見えた。
女高生数人と男子生徒が敏捷トレーニングの様なことをしている。
カメラを向けたら、パッと集まってVサインで応じてくれた。
ファインダーから見るはち切れそうな笑顔は、まさに青春そのものだった。

JR呉線安芸幸崎駅付近は、幸陽ドッグの大きな工場が並ぶ。
その間にあった食事処で昼食にする。
カツ丼が670円で安くておいしかった。
午後も、青い空に大きな白い雲が浮かぶのどかな風景が続く。
しかし、気温も上がり疲れが出てくる。
砂浜や岸壁の階段に腰を下ろし、波の音を聞きながら休む。
時には、波打ち際へ行き、海水を手で汲んで少しなめてみる。
やわらかみのあるショッパサだった。

やがて道は山影に入り、涼しく快調に歩く。
今日の宿は、JR三原駅近くのビジネスホテル。
三原駅前に着くと、さすが新幹線駅で大きく立派だ。
そこから、電話で教わった道でホテルへ。
マリンロードと呼ばれる道の歩道は、ナント木造のデッキ舗装だ。
道路の歩道で、こんな舗装は初めて見る。
足の負担が軽く、歩く感触が気持ちいいゼイタクな舗装だ。

ホテルに着いてチェクインすると、シングルルーム料金だけどダブルルームに入れてくれた。
コインランドリーがあり、汗をかいた下着等を洗う。
夕食は近くのコンビニで弁当とサラダを買う。
それに、ホテルの自販機で缶ビールを加えた。