日本一周てくてく紀行

No.185 東海道 編(掛川市駅前~静岡市葵区両替町)

昨夜も良く眠れた。
今日は島田市まで20km弱の短い旅。
曇りのまずまずの天気で、元気に出発。

宿から東海道(国道1号)に出て東に進む。
千羽交差点のコンビニ前で最初の休憩をする。
そこからさらに東に進むと、掛川バイパスの国道1号と交わる。

国道1号の道路標識に導かれて東方向に進むと、道の駅「掛川」があった。
道の駅は完成したばかりでオープン直前の感じ。
周辺の整備はまだ完了してないようだ。
東屋風のガラス張りの休憩所は完成して利用できそうなので、そこで休むことに。
内には、本か何かを読んでいる男性がひとり。
しばらくして、その男性が話しかけてきて、わたしの旅に興味を持ってくれた。
埼玉県の新井さんというその男性は、合気道や古武術の動きをスポーツに活用する活動をしていると云う。
特に野球やサッカーをする高校生等の指導で全国を巡っているそうだ。
古武術等の「信じられないチカラ」の話は聞くことがある。
しかし、実際にそれができる人にあったことはない。
新井さんは55歳から興味を持って、いろいろな達人の教えを受けたという。
半信半疑のわたしに、新井さんは実際に身体を使って実演してくれた。
まず私のために、急坂や階段を登る時は竹馬の要領で、膝を直角に折って足を真っすぐ下に下ろせという。
実際に二人で石段のあるところへ行って試してみると、たしかに疲れない足の運び。
次に、力を抜いて意識だけで大きなチカラや素早い動きを発揮する話になる。
それを、ひとつひとつ実演してくれた。
あっという間に1時間ほどが過ぎてしまう。
もっと教えてもらいたい気持ちだけど、まだ旅先が長いことを思い出す。
お礼と一緒に名刺を交換し、写真を撮らせてもらい出発する。

道の駅から国道1号を行こうとすると、その道は歩行者禁止になっている。
近くで工事をしている人に聞くと、この道は日坂バイパス道路で自動車専用だそうだ。
歩行者は、先ほどの交差点をそのまま北に行く旧国道1号(東海道)を行かなければと云う。
気をつけていたけど、歩行者禁止のバイパス道路に入る失敗をしたことに気付く。
しかし、この失敗は新井さんと出会う幸運を与えてくれた。
「何が幸いするか分からない」とはこのことで、この時ばかりはラッキーな気持ちに。

新井さんとの出会いは、こんな偶然だった。
そして、初対面にもかかわらず熱心に実演指導していただいた。
この時の出会いは、旅を終えた後のわたしの人生に影響を与える運命的なものになった。

道の駅から教わった道を迷いながらも、旧国道1号(東海道)に出る。
間もなく日坂という集落を過ぎる。
ゆるい登り坂の道で、歩道も歩きやすく整備されている。
バイパス道路ができ、こちらは車の交通も少ない。
ノンビリした気持ちで進み、やがてトンネルをひとつ抜ける。
そして間もなく、峠の茶屋といった感じの店が見えた。
近ずくと、「宝暦元年(1751年)開業」の文字が書かれている。
店の横に、「夜泣石(この上30m)」の看板が立っている。
それで、ここが「東海道小夜の中山峠」だと知る。
箱根峠、鈴鹿峠とともに東海道三大難所のひとつ。
歌川広重の浮世絵「東海道五十三次日坂」でも、急な坂道を行き交う旅人が描かれている。
その絵には、道の上に1m位の丸い石も描かれていて、それが夜泣石だそうだ。
実際の小夜の中山は、現在の道より南側の山道。
夜泣石も明治以降に、そちらからこちらに移設されたそうだ。
小夜の中山には、夜泣石に限らず様々な伝説や史跡がある。

それはさておき、昼時でもあり店に入って山菜そば(600円)を注文する。
そばを食べ終えても、何か物足りない。
それで、ぜんざいを追加する。
むかし懐かしい味に、ちょっと往時の旅人気分に。

小夜の中山峠から国道1号を離れ旧道を行く。
金谷宿への道で、くねくねした道を下る。
山の斜面は、かまぼこ型に刈り揃えられた茶畑が美しくひろがる。
遠くに金谷の市街地とその先に大井川が望める様になる。
墓地の間の細い道を下ると、道路脇の石段の上に風格のある寺院があった。
「洞善院」とある。
金谷の市街地に入って、国道473号や大井川鉄道線路を渡る。
そして、大井川の右岸に到る。

小夜の中山が三大難所のひとつなら、大井川は東海道随一の難所。
江戸幕府は軍事的配慮から、この大河に架橋は勿論、渡し船も禁じたと云う。
旅人は、川人足の肩に担がれて渡るしかなかった。
そのため、「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」と謳われた。
大井川を挟んで、金谷宿と島田宿ができた。
広重の「東海道五十三次」でも、旅人が大井川を渡る様子を、金谷側と島田側からの2枚描かれている。

現在は大井川橋が架かり、自転車・歩行者は専用橋もあり、安全かつ快適に川を渡る。
川を渡って島田市の市街地をJR島田駅に向かって進む。

今日の宿はJR島田駅近くにあると聞いていたが、ちょっと分かりづらいところにあった。
電話で道を教わりながら行くと、6階建ての建物の壁に懸る大きな垂れ幕が見えた。
垂れ幕には、目指すホテル名と「シングル5040円(税込)朝食サービス付き}の文字が。
玄関に入ると、自動化が進んだ最新のビジネスホテル。
東北のどこかでも同じ様なホテルに泊ったことを思い出す。

次の日は曇りで小雨模様の天気。
そして静岡市まで30km程のロングな旅。
気を引き締めて、早めにホテルを発つ。
ホテルからJR島田駅の北口に寄ってみる。
駅舎の前は工事中の塀があって殺風景。
写真を1枚だけ撮って先へ急ぐ。
駅に向かう通りで、道を急ぐ通勤・通学者とすれ違う。
まだ2年ほど前のことだが、自分もこうした通勤者だったことが遠い昔のよう。
本通り2丁目交差点を右へ、島田市街地を横断し国道1号(東海道)に出る。

国道1号はJR東海道本線と並行し、やがて小雨が降り出す。
それを期に、松の大木の下で休憩にする。
こうした小雨の日は、気も沈みがち。
ぼんやりと考え事をする。
もう何日も酒を控えている。
入浴剤入りの風呂で疲れを溜めない様にもしてきた。
どうやら、風邪も治ったようだ。
それに気付くと元気も出て、早々に腰を上げる。

藤枝市の市街地を抜けると、藤枝バイパス(国道1号)との交差点「内谷新田」に到る。
昨日の失敗を繰り返さない様に、国道1号は避けてそのまま真直ぐ旧道を行く。
岡部町の沿道で食事処をみつけ昼食にする。
ちょっと豪華な八宝菜定食(1150円)を食べる。

宇津ノ谷峠のトンネルを抜けてしばらく行くと国道1号に出る。
そこには、道の駅「宇津ノ谷峠」があり休憩をとる。
国道1号は、上下線が分かれた広幅員道路で凄い交通量だ。
圧倒される気持ちで坂道を下る。
丸子インターから右へ国道1号(東海道)で静岡市街地に向かう。
丸子のホームセンターでひと息入れて、先に進み安倍川を渡る。
安倍川に架かる駿河大橋の袂から安倍川橋に向けてカメラのシャターを切る。
この写真は、山並みの形から広重の「東海道五十三次府中」の構図に良く似ていた。

JR静岡駅北口に着いたのは、午後5時近くになった。
たそがれ時で雨も降る中、駅の観光案内所へ行く。
そこで今日の宿の場所の案内と観光パンフをもらう。
駅前は地下街工事中で、まちが大きく変わる様子。

予約してあるホテルは、駅から少し離れた県庁近くにあった。
ビジネスホテルというよりシテイホテルの格調だ。
ホテル内には割烹料理店があり、宿泊客は10%割引だという。
夕食はそこで焼肉定食(1040円)と熱燗1本をオーダーする。
さすが本格料理店の焼肉でおいしかった。
久し振りの熱燗も心地よく五臓六腑に滲み渡り、イイ気分に。