日本一周てくてく紀行

No.106 山陰 編(日吉津村今吉~島根県松江市玉湯町)

今日は曇りの天気。
まだ白い雪を冠した大山を眺めながら歩き始める。

日野川に架かる皆生大橋を渡ると米子市になる。
沿道は賑やかになるが、風景は最近全国どこでも見られるものだ。
そんなチョッとした気落ちから油断があったのか、交差点をひとつ間違えてしまう。
途中で道を尋ねたけど、道路地図と合っていない感じで不安のまま歩く。
結果的にはそれほどのロスもなく、予定の国道9号に出る。
徐々に気温が上がり、身体が気だるくなってきた。
木々が生い茂る米子城址の石段で休憩する。
米子城址から30分程ゆくと、鉄パイプ構造の道路横断ゲートに取り付けられた島根県と安来市の標識がみえた。
島根県には県章が安来市にはどじょうすくいの絵が描かれている。
島根県と云えば、神代の「出雲の国」が浮かぶ。

古代、出雲の国は、現在の島根県出雲市、安来市から鳥取県米子市、大山町におよぶ地域だったといわれる。
日本最古の歴史書「古事記」は、天武天皇の勅により和銅5年(712年)に編纂された。
その古事記に出てくる神話の3分の1は出雲が舞台になっている。
それは、出雲の国が古代の日本でいかに重要な地位にあったかを示す。

そんなことを考えながら進むと、沿道にはやけにラーメン店が目立つ。
お昼には少し早いけれど、その内のひとつに入ってみる。
国道沿いの仮設店舗の様な小さな店だ。
席は満席状態で、ひとつの席に滑り込む。
焼豚味噌ラーメンを食べてみたけど、これがなかなか美味しい。
これだけいろんなラーメン店があるなかで、店構えは劣るけれど、味の良い店だとみんな知ってるみたいだ。

今日の宿は、山陰本線安来駅の近くにある。
その駅前に13時5分に着き、近くの観光案内所で予約した旅館の場所を尋ねる。
旅館はすぐ40m先だと云うので、宿に荷物を預けて足立美術館へ行ってみることに。
その前に、駅前から出ると云う美術館行きのバスの時刻を調べに駅に戻った。
ちょうどその時、美術館の無料送迎バスが来たので、慌てて荷物を背負って飛び乗った。

足立美術館は、旅の途中で観光ポスターか何かで知り興味を持った。
送迎バスで着いてビックリで、規模も内容も予想以上だ。
庭園日本一を誇るだけあって、13000坪の敷地に枯山水庭、白砂青松庭、池庭、苔庭とそれぞれ見事な作庭だ。
どこを切り撮っても絵になる、とカメラを向けながら巡る。
床の間のある和室に大きな庭園の掛け軸が見える。
近づいて良く見ると、それは床の間の壁をくりぬいて見える外の庭園風景だ。
これにはマイッタ、と感心する。
庭園だけでなく、館内には横山大観、川合玉堂等の近代日本画壇の巨匠たちの作品も展示されている。
さらに、北大路魯山人、河合寛次郎の作品を展示する陶芸館もある。
しかし時間がなくなり、陶芸館は駆け足で観るのがやっとだった。
最初、入館料2200円は少し高いかなと思ったけれど、おまけまでもらったような満足感が残った。

ふたたび送迎バスで安来駅に戻り今日の宿へ。
女将さんはとても感じの良い人で、すぐにお風呂の用意をしてくれる。
夕食の時には、ご夫婦で話し相手もしてくれた。
安来市に入ったらラーメン店が目立った話をしたら、どうしてこうなったか理由は分からないという。
数年前に地元新聞にも取り上げられ、ラーメン街道と呼ばれている、と話してくれた。

安来市の宿を出る時、ご主人と女将さんが揃って見送ってくれた。
天気も良く、元気よく歩く。
しかし、調子に乗りすぎたのか、左足の第2指が痛み歩行を緩める。
宿を出てほどなく、「安来郷」、「出雲国風土記登場地」、それに何か細かい文章の銘文が付いた石柱が見えた。
その横には、「安来郷長」と「語臣猪痲呂像」の銘文が入った石の土台があり、上に古代衣装の男の銅像が立っている。
ふたたび石柱の文章に目を凝らすと、スサノオノミコトがこの地に来て「心が安らかになった」といったことから「安来」になった、 との銘文が読めた。
ナント、あの狼藉者で高天原から追放されたスサノオノミコトが、この地で心が安らかになったと云う。
ヤマタノオロチ退治で荒ぶる神から一転して民に慕われる神になれたのは、この地で生れ変ったからか。

では隣の銅像「語臣猪痲呂」とは何者か。
不覚にもこの時は分からなかった。
後で調べると、出雲国風土記に「猪痲呂伝承」として記される人物だった。
語臣猪痲呂は、ワニザメに噛み殺された娘の死に嘆き悲しみ、数日後、八百万の神々に訴えて復讐を果たす。
どうやら銅像は、ワニザメを刺殺した猪麻呂の鋭いモリを持つ姿のようだ。
今も毎年行われる安来の夏祭り「月の輪まつり」は、この伝承に由来すると云う。

そんな歴史の鼓動が伝わってきそうな街道を行く。
東松江の竹内神社のところで昼時になる。
竹内神社は由緒ある神社の雰囲気で、近辺には出雲国庁跡もあり、このあたりは出雲の国の中心だったようだ。
神社の横に食事処があり、そこでそば定食の昼食をとる。

カメラの2枚あるCF(画像メモリー)の1枚の調子がよくない。
倉吉市の旧市街地を撮った時からで、撮影する23枚目の画像に問題が発生するようだ。
この画像を削除したりして急場をしのいできた。
今日もエラーが出てもう限界だ。
松江の中心市街地なら大きなカメラ店があるだろうから、そこで新しいCFを購入することに。
JR松江駅の南側の市街地で、地元の高校生に教わったカメラ店へ行く。
さいわい持っているのと同じCFがあり5800円で購入する。
約1年半前に東京の量販店で買った時は、これより2~3割高かった気がする。

松江から出雲大社へ行くのに、宍道湖の北側と南側を行く二つのルートがある。
迷った末、宿が見つけやすい南側ルートにする。

宍道湖はさすがに大きな湖だ。
風が強く波立つ湖面がキラキラ輝き、そんな風景をしばし眺めて休憩をとる。
午後3時頃になると、昼食にそば定食では物足りなかったようで空腹を覚える。
玉湯町に入ったところでスーパーを見つけ、プリンを買って食べる。
今日の宿は、電話帳で探した玉湯町(現松江市)湯町の旅館だ。
スーパーのところから電話で尋ねて行くと、1km程先の湖に近いところにあった。
旅館と思って行ったら、ホテルだった。