森町から八雲町までは、約33kmの行程である。
この距離は、一日で行けないことはない。
しかしその翌日の長万部までは、同程度の行程になる。
今までの旅の経験では、30kmを超す行程が続くのはかなりきつい。
北の大地の旅を始めたばかりなので、余り無理はしたくなかった。
さいわい、森町と八雲町の中間に落部という集落があり、そこに1軒の宿が見つかり宿泊の予約がとれた。
それで今日は、森町から八雲町落部まで約15kmの短い旅になった。
朝、森町の宿を発つとき、女将さんがお昼にとおにぎり2個を渡してくれた。
こうしたさり気ない好意が、旅人にはとてもうれしいものだ。
森町の市街地で郵便局をみつけ、旅費の補充をする。
そして市街地を抜けて国道5号線に入ると、霧が濃くなってきた。
噴火湾の海が霧のベールに包まれてしまったので、「霧の函館本線」をテーマに沿線を撮影しながら歩いた。
途中、宿の女将さんの読み通り食事処やコンビニ等の店はなく昼時になった。
山間の道で、道路工事現場のような空き地を見つけ、宿でいただいたおにぎりで昼食をとった。
青森県の野辺地の宿で手渡された干しホタテがおかずになって美味かった。
おにぎりを頬張りながら、足元の水路に眼をおとすとそこに沢山のオタマジャクシが泳いでいた。
オタマジャクシを見なくなってずいぶん久しく、それをこの北海道で見つけたことに少しばかり驚きがあった。
昼食後、1時間も歩かないうちに、予約した民宿名と同じ名前のドライブインがあった。
てっきりここがその宿と思って入った。
ところが、同じ経営者だけれど、民宿の方は歩いてもう15分ほど先にあるという。
しかも、いまは誰もいないのでこのドライブインで待ってほしいと言われた。
コーヒーを注文して、マンガ「ゴルゴ13」を読みながら待った。
2時間半ほど経った16時過ぎにようやくOKが出て出発した。
宿は落部市街地の手前の端っこにあった。
荷物を部屋に置いて、落部市街地にある「JR落部駅」まで行ってみることにする。
霧のかかった天気のせいか、駅全体の雰囲気は寂しげだった。
対象的に山側には、真新しい鉄筋コンクリートの道路橋が存在感を際立たせていた。
翌日の朝、めざめて窓から外をのぞくと、気持ちの良い晴天だった。
きのうは顔を見せなかった海も、遠くまで見渡せる。
今日は八雲町本町までの旅で、昨日と同じ15km程のショートの旅だ。
気分ものんびりして、あちらこちらにカメラを向けながら歩く。
農場のサイロが見え、北海道らしい景観に心も浮き立つ。
バスストップにはしっかりとしたバス待合所が造られていて、旅人が休憩するのにありがたい施設だ。
待合所の片隅には、雪かき用のスコップが立て掛けられていたりする。
それを見ると、この地の冬期の厳しさを想い、その時ここでバスを待つ人の気持ちはどんなだろうかと思った。
天気も良く、ほどよい間隔と場所で休憩もできると気持ちに余裕ができる。
民家の庭先に咲き誇る花々が、眼に染みるのはそのせいか。
山越という集落を通る時、江戸時代に蝦夷地と和人地を別ける日本最北地の関所跡という道標があった。
さらに行くと、JR山越駅があって、その駅舎は関所の陣屋をイメージしたデザインになっていた。
駅舎の待合室に入ると、当時の関所の模型がありしばらくそれを観察する。
そこから歩きながら、昼食をとろうと食事処を探すうちにJR八雲駅前まで来てしまった。
午後1時過ぎになったが、伊勢屋という食事処が眼に入り、そこで親子丼を食べた。
店を出るとき、八雲町の観光ガイドブック、パンフ、タウンマップをくれた。
それを読むと、八雲町は私の郷里尾張藩が開拓したところだという。
たしかに以前にそんなことを何かで読んだ記憶があるが、すっかり忘れていた。
八雲市街地は、明るくちょっとシャレたまちに整備が進められているようだ。
郷土に関係する遠くにある町が、みんなで元気な街づくりをしている、そんな雰囲気が感じられてうれしかった。
今日の宿となる旅館も、八雲駅のすぐ近くにあった。
旅館とはいえ、洋室も半分ぐらいあるけれど、案内されたのは立派な床の間付きの純和風の部屋だった。