日本一周てくてく紀行

No.8 房総半島編(旅を終えて)

房総半島の旅を終え、帰宅する常磐線の列車の中では、大きな安堵感と満足感に包まれた。 一人で13日間もの長い旅をしたことは初めてだった。 しかも、306kmを歩きとおしたことは、大きな自信となった。

一方で、歩いて日本一周する旅の課題もいくつか見えてきた。
旅を終えた3日後に熱を出して1日寝込んでしまったのだ。
体質的に疲労が溜まりやすく、かつては疲れが溜まって年末にどっと寝込むことはよくあった。 ここ何年かはなかったことだが、やはり相当疲れがたまっていたのだ。
いかに疲れを溜めないで旅を続けるか、この工夫が最も大きな課題として浮かんだ。

次が宿の問題である。疲れを溜めない一番は、野宿は避け必ず宿をとることである。 房総半島は、電話帳で見る限り、ホテル、旅館、民宿、国民宿舎等が沢山ある。 しかし、当日の飛び込みや一人客ではと、断られることがあった。 宿が見つからず、冷や汗をかいだことが2度ばかりあった。 必ず事前に予約しておくことが大切であった。
しかし、この問題は意外とむずかしく、その後の旅でも何度も悩まされることになる。

三つめの問題は、旅の間ずーと、足にできたマメの痛みに苦しんだことだ。
これまで一日や二日程度の旅では、足にマメができることはなかった。 しかし、雨で足が濡れたりすると、とたんにマメができ、その後は雨がやんでもどんどん成長してゆく。
雨に強い自分に合った靴を見つけ、旅立つ前に十分に履き慣れておくことを痛感した。

房総半島の旅は、苦しみもあったけれど、やはり素晴らしい思いを味わせてくれた。
日本は島国だというのに、広い平野の都会でのくらしに慣れた自分は、すっかりそのことを忘れていた。
どんな小さな入り江にも漁港が整備され、そこに確かな生活がある。
長く広い海岸には、大勢の若者がサーフィンを楽しんでいる。
海辺のどこに行っても、釣り人が糸を垂れている。
広大な海は、空からの光のシャワーを浴びてキラキラと輝いている。
陽射しが、水平線の彼方から寝ている枕元まで達する日の出。そして荘厳な夕日。
中原中也の詩だったか、
「海よ、あなたの中に母がいる」の一節が、何度も何度も浮かぶことがあった。