日本一周てくてく紀行

No.67 北の大地編③(当別町~小樽市銭函)

この旅では、百円ショップの「都道府県別道路地図」を参考にして歩いている。
しかし、北海道はその縮尺83万分の1の地図では分かりずらい。
それで、函館で買った縮尺20万分の1「ツーリングマップ北海道」も参考にしている。

ツーリングマップによると、いよいよ札幌まで30km程である。
JR石狩当別駅は、町規模の駅舎としては段違いに立派な建物だ。
これを見ても、大都会札幌の影響圏に入ったのではと気もときめく。

しかし、本土の大都会近郊と違って、その駅前と駅大通りは、あくまでも広々として静かな雰囲気だ。
それもそのはず、ここは石狩平野のただ中にある。
天気も晴れで、広大な平野の風景が気持ち良く、午前中は元気に歩く。
昼頃になると気温が上がり、またもやバテ気味になる。
石狩川の支流の豊平川のところで、遠く札幌の市街地が見えた。
リンドバーグの大西洋単独横断飛行での有名な言葉、「翼よ、あれが巴里の灯だ」を思い出す。
そして、「バッグよ、あれが札幌のまちだ」とふるい立つ自分に苦笑する。

ツーリングマップの道路距離では30km程になるが、どうやら26kmの誤りのようだ。
JR札幌駅から1km程手前の宿には、予定より1時間早く着いた。

宿に着くと、すこし意外だった
普通の旅館と思ってきたけど、居酒屋を兼ねていて、内部は下宿屋の様な造りだ。
スポーツ合宿や工事関係の長期利用者が多い雰囲気である。
とにかく、先ずは汗を流そうと宿の人に「お風呂は?」と尋ねると、近所の銭湯利用券を手渡される。
なんだか、下北半島の下風呂温泉を想い出しておかしかった。
その銭湯が開くのは18時からと云うので、その間の2時間程を洗濯や日記をつけたりして過ごす。

銭湯から帰って宿の食堂で夕食をとり、部屋に戻っても落ち着かない。
久し振りに、大都会の賑やかな空気を吸ってしまった身体は、中の血が騒ぐのだ。
宿を出てすぐに「サッポロファクトリ」というのがある。
赤レンガ造りのビール工場を再開発した大型商業施設だ。
そこへ行ってみると大変なにぎわいで、ビアーガーデンでは大勢の人がサッポロの夜を満喫している。
そこからさらにJR札幌駅周辺を散策する。
駅ビルや中の店の雰囲気は東京と同じような感覚のオシャレな造りだ。
大都会の夜は、街の個性を消してしまうのだろうか。
札幌らしさを求めて有名な「時計台」を探し、そのライトアップを写真におさめる。
そうして2時間程の散策を終えた。

次の日は、小樽市の中心市街地まで36km程の旅だ。
小樽は観光地でもある中規模都市で、宿は当日予約でも心配ないと考えた。
それで、小樽市域に入ったら、電話帳を調べて予約することにする。

宿を出て、道庁と市役所の間の通りを歩いて行くと、通勤者の流れに巻き込まれた。
暑さのせいもあり、朝からもう疲れた顔が目立つ。
ほんの1年前は、自分もこんな顔をして歩いていたことだろう。
そんなことを考えて現実の自分に戻ると、はやくも股関節がはって身体が重い。
昨夜の散策の疲れと暑苦しさで寝付けなかったせいだろうか。
このまま小樽の中心市街地まで行くことは無理と判断する。
札幌と小樽の中間で宿を探そうと104番に問い合わせる。
運よく小樽市域に入ってすぐの銭函というところに民宿とホテルが1軒づつあると云う。
電話するとホテルはラブホテルのようで、民宿の方に予約する。

こうして選んだ民宿は、思いがけなくいい宿だった。
新館と旧館の2棟がある大きな民宿で、宿泊客も多かった。
わたしが予約できた部屋は旧館の方だ。
夕食になって、新館の食堂に行くと、テーブル脇のガラス窓から素晴らしい眺めが眼に飛び込んできた。
宿は谷筋の高台にあって、下の民家の屋根越しにJR函館本線と銭函駅、その向こうは日本海である。
白と薄墨色した潮の流れが混じる海面が、徐々に暗闇に溶け込んでゆく。
それにつれて、列車や街灯の照明がオレンジ色に輝き始める。
その移ろいは旅情をそそり、食事の美味しさを一層引き立ててくれた。