日本一周てくてく紀行

No.18 ひたち・みちのく編(気仙沼市~岩手県陸前高田市)

翌朝、大谷海岸を散歩した。
ずいぶん遠浅の海で、美しい砂浜がつづいていた。
しかしその海に、捨てられた自転車が1台、波に洗われていた。
その風景をカメラのファインダーからのぞくと、荒廃した地球の姿をみるようで悲しかった。

この日は、気仙沼港に近いホテルまで約14kmの行程である。
昨日の疲れが残り身体が重かった。
おまけに足の脛が張る感じで、ゆっくりゆっくりと歩いた。
ここ数日、携帯電話のウエブ接続の調子が悪かった。
途中、auサービスセンターがみつかり、中に入って調べてもらった。
なかなか原因が分からなかったけれど、担当の女性が根気よく調べてくれた。
結局、ウエブ接続履歴が溜まって接続が重くなっていったことが原因と分かった。
担当の女性は、こちらが恐縮するぐらい、もっと早く原因に気付けばと謝ってくれた。

そんなことがあったのに、ホテルには午後1時過ぎに着いた。
フロントでチェクインをたずねたら、15時だけど部屋の用意はできているのでいまからでもOKだという。
さらに、近くにコインランドリーがないか尋ねると、そこは少し遠いのでホテルで使っている洗濯機をこっそり使わしてくれるという。
洗濯して、フロントにお礼に行くと干し物用具まで用意していて、よろしかったらどうぞといってくれた。

旅をしていると、こうした人の情けは身にしみます。

気仙沼港は、リアス式海岸の細長い深い入り江の奥にある。
翌日は、この入り江に沿って北上する。
朝から身体が固く、今日は休養をとるべきだったかと反省しながら歩いた。
入り江の岸壁には、大小さまざまな漁船がつながれていた。
ここの漁港は、水揚げ量が東北1位、全国8位だという。
大型漁船には、根室、釧路、富山、宮古と他県の船籍名が多くならんでいた。

気仙沼港を抜けると、山道になる。
長い唐桑トンネルを抜けると、高低差が大きな山間の地形がつづく。

けわしい地形とは裏腹に、山桜が咲き誇るのどかな春の風景が点在する。

あかい瓦屋根が目立つ集落では、祭り半纏を羽織る子供たちの姿が見えた。
そんな風景をカメラに収めながら行くと、今度は見事な黒い瓦屋根の民家とその向こうに紺碧の海が見え隠れする様になった。
広田湾である。
おりよく大理石海岸近くでお昼になり、ドライブインで昼食をとった。
昼食後は、アップダウンの道がボデイブロウのように効いたのか歩みが遅くなった。
休憩が多くなり、ベンチで少し眠ってしまうこともあった。

県境を越え、岩手県陸前高田市に入ると、なぜか声をかけられることが多くなった。
道端で女の人に、どこから来たのと聞かれたり、わざわざ車を止めて乗って行かないかと手招いてくれたりである。
もちろん「歩く旅なので」と、車に乗るのは丁重にお断りする。
そうすると、「気をつけて」とか「がんばってね」とかの励ましの声をかけてくれるのだ。

今日の宿は、高田松原の浜辺にあるユースホステルである。
高田松原は約2kmにわたって松林と砂浜がつづく景勝地である。
ここに渡る橋が二つある。
電話で宿の道順を聞いて行ったけれど、迷って遠いほうの橋を渡ってしまった。
それは1kmも満たない回り道だったけれど、宿に着いた時はへとへとだった。
よほど疲れていたのか、部屋に入ってそのまま1時間ほど眠ってしまった。

ユースホステルは、松林の中で夕日に映える鉄筋コンクリート2階建ての美しいたたずまいだった。