日本一周てくてく紀行

No.90 越前・中・後 編(滑川市中川原~高岡市福岡)

滑川のホテルの朝食は洋式にしたので、トースト、ハムエッグそしてコーヒーだった。
これでは、歩いて旅するにはちょっと不足。
それでも、今日は富山市のJR富山駅前まで20kmと短い旅なので、これでヨシと我慢。

今日はできるだけ旧街道を行ってみる。
昨日通って来た滑川の市街地と違って、JR滑川駅から東側は旧市街と云った佇まいだ。
宿場町の雰囲気が残る家並みが続く。
そんな道をのんびり行くと、小川に石橋が架かるところに出た。
その橋を渡った角の建物が、妙に気を引いた。
辺りも何となく風情がある。
キョロキョロ見回すと、案内板の様なのが建っている。
それには、かつてこの辺りは東京日本橋の様な賑わいがあったと書かれてある。
確かによく見ると、幾つもの水路があって、それにくっ付く様に民家が連なっている。
江戸時代は、加賀藩の年貢の積み出し地で北国街道の宿場町として栄えた。
橋場と呼ばれるこの地は、明治期まで中新川郡随一の繁華街だったといわれる。
そんな風情が残る周辺を歩き回る。
すると、江戸時代の旅籠の外観を残す旅館に偶然出会った。
実は一昨日、電話帳でこの旅館を見つけて予約の申し込みをした。
ところが満室だそうで断られてしまった。
まさに旅籠の雰囲気を残すこの宿に、やはり泊まりたかったと残念に思う。

滑川市の旧市街地を歩き回るうちに道に迷い、富山地鉄本線中滑川駅の前に出た。
そこから滑川高校前を通り、ようやく旧街道に出る。
常願寺川に架かる今川橋に到ると、河口付近に多数の漁船が集まり漁をしている。
橋を渡って直ぐの小さな緑地で腰を下ろし休憩する。
そこから海岸線に眼を移すと、遠く滑川や黒部の町並みが遠望できた。

今川橋からしばらく行くと、道の両側に大きな高い松が二本立っている。
ここは昔からの街道入口だと誇示してるようだ。
そこから海側は松林になる。
岩瀬運河のところで昼時になり、近くのコンビニで弁当を買う。
運河沿いはきれいな遊歩道になっていて、そこで弁当をひろげる。
神通川とJR富山港線の間の道を南に下り富山の中心市街地に入る。
JR富山駅北口前の大通りでは、とやまソーラン祭りの真最中だった。
この日は3連休の中日で、滑川市でもマラソン大会を開催していたのを思い出す。
ただでさえ、どこのソーラン祭りでも、踊り手の熱気が観客を包み込む。
ましてや、長く孤独な旅を続けてきた旅人の心にはいっそう響くものがあった。
心のどこかに火が点じられた様だ。
JR富山駅南口にある今日の宿に着いた時には、このホテルに連泊しようと決めていた。
そして今宵は、富山の夜を楽しもうということも。

ホテルの部屋に入り、入浴と着替えを済ませて夜のまちに出かけた。
前から富山ではイタリア料理でワインを飲みたいと思っていた。
しかし、イザとなるとレストランで一人で食事しても味けない気がしてきた。
やはり居酒屋で飲みたい気になる。
そんな旅人の心を見透かしたように、「イタリアンバー」の文字が眼に飛び込んできた。
店内に入ると、薄暗い照明の下でカウンター席に男性一人、テーブル席にカップル一組といった客が見える。
カウンター席に座って、先ずは、イタリア風揚げ豆腐、カリカリピザそれに生ビールをオーダーする。
ビールを飲んでいると、少し離れたカウンター席の男性が話しかけてきた。
どうやら、注文の品を待つ間、わたしが店の内外を撮ったりしたのを見ていたらしい。
それで「どんな写真を撮られるのですか」と話しかけてきた。
聞けば、彼も写真が趣味で10年以上続けているという。
そして、丁度プリントして来たばかりの写真があるので批評してほしいともいう。
批評なんておこがましいので、感想でよければと思うままに話す。
すると、碓井さんと云う男性は、非常に喜んでくれた。
彼との話がはずんで、赤のグラスワイン2杯、生ハムの巻き上げ、そしてスパゲテイと食の方もすすむ。
話に夢中になっている時、白いコック姿の女性が現われた。
碓井さんによると、ここの女性シェフだと云う。
平成の時代になって、女性シェフと云うのも珍しくないようだ。
しかしこんなに身近で見るのは初めてで、思わずカメラを向ける。
すると、にっこり微笑んでくれたのが、何とも嬉しい瞬間だった。

次の日は、JR富山駅南口のホテルに連泊し休養日とする。
ここのホテルは、朝食サービスでおにぎりとみそ汁が出ると云うので、7時にロビーへ行く。
すでに大勢の宿泊客で混んでいて、座席を確保するのがやっとだ。
朝食後は、休養日の日課で午前中を過ごす。
昼になってまちの散策に出かける。
昼食は、駅ビル内の店でラーメンセットにする。
それから、路面電車が走る道を南に向かって歩く。
JR富山駅~市役所~県庁~城址公園とブラブラ。

富山で一番の繁華街を探して、長いモール街を見つける。
総曲輪と中央通り商店街と云うところだった。
わりと人出はあったけれど、シャッターを下ろした店も数店ある。
やはりここも、かつての勢いはなさそうに見える。
全国チェーン店「ドトール」でコーヒーを飲み帰る。

ホテルに戻り、明日からの行程を検討する。
明日は福岡町(現高岡市)まで31kmの長旅になる。
天気が少し悪くなるとの予報なので気がかりだ。

連泊明けの次の日は、朝から晴れて雨の心配はなさそう。
しかし、31kmのロングな旅になるので気を引き締め出発。
今日は県道を行くので、道を間違えないか心配だった。
県道は道路標識が少なく、どの辺りを歩いているのか分からないことがある。
だがこの県道は、旧国道8号線だと云うことが分かり安心する。
神通川に架かる富山大橋を渡ると徐々に上り坂になる。
ふと振り返ると、富山の市街地が見渡せた。
グッドバイ「富山」、またいつか。

JR高山本線を越え、さらにJR北陸本線を越えると、そこからはこの鉄道に沿う道になる。
そして、富山市から小杉町(現射水市)を通り大島町(現射水市)に入る。
この町の中ほどで昼時になり、食事処で日替わりランチを食べる。
昼食を済ませてしばらく行くと高岡大橋を渡る。
岐阜県北部を源流とする庄川だ。
キラキラ輝く川面に、釣り人達が糸を垂れている。

やがて、高岡古城公園に到る。
広い公園で一廻りしたいところだけれど、道中先が長く休憩だけにする。
四屋交差点からは、国道8号線になる。
沿道は家並みが途切れることはなく、休憩場所も適当なところが見つかり順調なペースで進む。
しかし、沿道はどこでも見られる風景で退屈する。
途中、見慣れた風景もしっかり見なければ、とハッと気づく。

今日の宿は、JR福岡駅近くと云うことだけれど分かりづらい。
宿に電話して道順を尋ね、ようやく到着する。
女将さんが温かく迎えてくれた。